検索窓
今日:5 hit、昨日:0 hit、合計:1,200 hit

第8話 泣けない涙 ページ9

如月さんからも逃げてサイドスペースに駆け込む。荒い息を整えながら、ドアを少し開けて周りに誰もいないのを確かめた。


「ごめんなさい……」


サイドテーブルに手を置いて伏せる。涙が溢れそうな時はこうするんだ。涙がこぼれ無いように。

良く、上を向いて歩こう、涙がこぼれ無いようにって言う。けど、私の場合は上を向いてると涙がこぼれて来るんだ。上を向くと、まだいる気がする。上から、私を優しげな眼差しで見下ろすメランジュが。上を向いて泣かないようにしていると、「我慢しないで良い、私の胸を貸してやるさ」と言ってくれたメランジュが。

名前も知らない、家族構成も年齢も知らない。所属も知らないし、趣味や特技も知らない。誕生日は教えてくれたけど、それ以外は教えてくれ無かった。

組織での任務を見ていると、狙撃や体術などの戦闘系が得意である事は分かった。趣味は分からない。けど多分、景色を眺める事だと思う。花や空を良く眺めていたから。

私はたくさんの幹部を殺してしまっている。そのほとんどがTVMやKGBのスパイ。命を懸けて潜入捜査をして来ている人達。その人達を見殺しにしたおかげで、私はFANTASYの幹部として、潜入捜査を命じられるまでになった。

ボスからも気に入られて、たくさんの人にとても羨ましがられた。「本当は誰かに協力して貰ってるんじゃない?」と誰かに言われた覚えがある。「そんな事無いです」と誤魔化したけど、実際はその通りだった。

不本意とはいえ、私がスパイだと分かった時点でファンタジスタに気付かれる。そしてそれをファンタジスタがボスに報告する。いわばみんなを生贄にしたのと同じ。

大切な人を生贄に差し出すなんて、酷すぎる。大切な人でもなんでも無いじゃない。メランジュ、シリウス、アリア、リュート、ソネット、カノン……それからたくさん。

私はもう、謝る事しか出来ない。死ぬ事は出来ない。死のうものなら、アレースに監 禁されるだけ。さらに自由が無くなる。

今回の潜入捜査で、もう一度チャンスが出来た。闇組織からは逃げれ無くても、外には出れりを陽の光を浴びれる。

落ち着いて、Jokerを葬ればいいだけ。如月さんを殺せば。任務は成功だから。殺す事だけ考えてもいても、それをなぜだか実行に移せない。それは私が、如月さんやみんなの事を知らなくても、心のどこかで尊敬しているからなのかもしれない。





【泣けない涙】
(涙が泣けないと訴えるの)
(お前自身は泣きたいのだろう?)

第9話 人の温もり→←第7話 重なる面影



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (2 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:櫻咲翼遥 | 作成日時:2016年12月25日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。