第8話 泣けない涙 ページ9
如月さんからも逃げてサイドスペースに駆け込む。荒い息を整えながら、ドアを少し開けて周りに誰もいないのを確かめた。
「ごめんなさい……」
サイドテーブルに手を置いて伏せる。涙が溢れそうな時はこうするんだ。涙がこぼれ無いように。
良く、上を向いて歩こう、涙がこぼれ無いようにって言う。けど、私の場合は上を向いてると涙がこぼれて来るんだ。上を向くと、まだいる気がする。上から、私を優しげな眼差しで見下ろすメランジュが。上を向いて泣かないようにしていると、「我慢しないで良い、私の胸を貸してやるさ」と言ってくれたメランジュが。
名前も知らない、家族構成も年齢も知らない。所属も知らないし、趣味や特技も知らない。誕生日は教えてくれたけど、それ以外は教えてくれ無かった。
組織での任務を見ていると、狙撃や体術などの戦闘系が得意である事は分かった。趣味は分からない。けど多分、景色を眺める事だと思う。花や空を良く眺めていたから。
私はたくさんの幹部を殺してしまっている。そのほとんどがTVMやKGBのスパイ。命を懸けて潜入捜査をして来ている人達。その人達を見殺しにしたおかげで、私はFANTASYの幹部として、潜入捜査を命じられるまでになった。
ボスからも気に入られて、たくさんの人にとても羨ましがられた。「本当は誰かに協力して貰ってるんじゃない?」と誰かに言われた覚えがある。「そんな事無いです」と誤魔化したけど、実際はその通りだった。
不本意とはいえ、私がスパイだと分かった時点でファンタジスタに気付かれる。そしてそれをファンタジスタがボスに報告する。いわばみんなを生贄にしたのと同じ。
大切な人を生贄に差し出すなんて、酷すぎる。大切な人でもなんでも無いじゃない。メランジュ、シリウス、アリア、リュート、ソネット、カノン……それからたくさん。
私はもう、謝る事しか出来ない。死ぬ事は出来ない。死のうものなら、アレースに監 禁されるだけ。さらに自由が無くなる。
今回の潜入捜査で、もう一度チャンスが出来た。闇組織からは逃げれ無くても、外には出れりを陽の光を浴びれる。
落ち着いて、Jokerを葬ればいいだけ。如月さんを殺せば。任務は成功だから。殺す事だけ考えてもいても、それをなぜだか実行に移せない。それは私が、如月さんやみんなの事を知らなくても、心のどこかで尊敬しているからなのかもしれない。
【泣けない涙】
(涙が泣けないと訴えるの)
(お前自身は泣きたいのだろう?)
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作者名:櫻咲翼遥 | 作成日時:2016年12月25日 18時