第16話 少しずつ歩みゆく ページ18
嘘は言ってない。ミルザムがいる事は聞かされていた。まさか私を狙うとは思わなかったけど。
「ふむ……」
「私が、」
「なんだね?」
「私が狙われてしまったのは、おそらくファンタジスタの位置から見えてしまっていたんだと思います。迷惑をお掛けして、すみませんでした。責任を取って……」
「迷惑なんて誰でも掛けるさ。お前はまだ未熟。自分がやれる事だけやれば良い」
「え……」
迷惑なんて、誰でも掛ける……? でも私、失敗したのに……。なんでそんな事を……。優しい言葉を……。
「僕だって初めの頃は迷惑掛けてばかりだったよ。少しずつで良いから、頑張ろう?」
「少しずつ……。でも私、失敗して……」
私のせいで如月さんもロウ君も怪我してしまったというのに……。なんで? なんでそんな笑顔で……。まるで当たり前のことかのように許せるの? 失敗したら殺す、じゃないの?
「失敗はこれからの力だからよ! それにな、誰も迷惑がってなんかいねぇよ!」
「失敗は誰にでもあるから! 元気出して! 大丈夫だから!」
「本当……ですか……?」
「気にする事は無い。誰にでも有る事だからな」
「はい、っ……!」
目の前には、笑っている五人がいた。如月さんは少し頬が緩んだだけだけど、それがきっと彼の笑いなんだ。それよりも……許してくれた、失敗を。守ってくれた上に許してくれるなんて……。心が温かくなった。単純かもしれないけど、そう感じた。たった一回の出来事なのに。
「君が心配する事なんて、何も無いよ」
「大丈夫! ゆっくり行きましょ? 私達は仲間なんだから!」
「もっと頼った方が良いかもな。今のお前なら」
三人の口から出たその言葉で……一瞬にして心が凍り付いた。
『君は心配しないで。ワタシは生きて帰って来るから』
『君のペースで行けばいい。俺達は心を通わせ事が出来る友、そうだろう?』
『もっと頼ってくれて構わない。君なら大歓迎だ』
カノン、ファース、メランジュ。ごめんね。忘れられそうに無いや。私にはみんなが必要だよ。もし一つ願いが叶えられるなら……あの頃に戻りたい。失ってしまったたくさんの人達の元に。
その想いはカオルさんの笑顔で心の奥にしまい込んだ。大丈夫、私には今、この人達がいる。きっとこの人達は……分かり合える。
なんて温かい世界なんだろう。この世界は陽が当たってるだけじゃない。みんなが温かくて、それがこの安心をもたらしてるんだ。
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作者名:櫻咲翼遥 | 作成日時:2016年12月25日 18時