エンド・カード3【JG】

エンド・カード19 ページ10

ガリっと奥歯が軋む。
強く噛みすぎたらしい。少しだけ奥歯が欠けて口の中に異物が転がった。


「お前ののお兄さんは、実に優秀なスパイだったよ。それこそ、此方の味方につけたい程にね。その上彼が我が国の機密情報を持っていたのでね。総力を挙げて捕まえたよ。流石の彼でも大人数には勝てなかったらしい。」



クツクツと笑う彼は私の周りをぐるぐるとゆっくり回る。
嘲るような靴音が耳障りだ。



「彼には交換条件を提案したよ。生かしてやるが、その代わり二重スパイになり此方に情報を流す。もしくは、何も言わないのならばこの場で殺す、とね。」


男の靴跡がAの真後ろでピタリと止まった。
そっと、肩に手を添えられ耳元で囁かれる。



「残念ながら彼は後者を選んだ。然し彼ほどのスパイをただ殺すのは勿体なかった。だから我々は彼に実験台となってもらい、この薬を打った。」



Aの目が見開く。
其れでも止むことがない悪魔の囁き。



「吐き気や頭痛に苦しめられた彼だったが、弱音は吐かなかった。『助けてくれ』の一言もね。只々椅子に腰掛け俯き、表情を歪めながら苦しみに耐えていた。」



眉間に皺が寄る。
唇を思い切り噛み締めた所為か、鉄の味が少しだけ口の中に広がる。



「1週間ほど経って、吐き気などの症状は無くなったらしい。だが、彼の体には変化が起きていた。片目の色素が抜け落ちていたり、指が一本増えていたり。彼方此方が少しずつ奇妙に変化していた。そんな彼の姿は気味が悪かったさ。」


気味が悪いと言う割に、男は楽しげに話をする。
そんな奴の態度に虫唾が走る。



「もう用済みだと判断した私達は彼をここの一番奥の部屋へと閉じ込めた。



もう何年も何もやっていないから今頃は白骨化でもしてるだろう。」

エンド・カード20→←エンド・カード18

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す