エンド・カード3【JG】

エンド・カード37 ページ28

頭に優しく手が置かれ、ハッと顔を上げる。


この手は何を意味している……？

スパイを無理に続ける必要はない、ということを示しているのか……？





「………日本に帰国しろ。次の任務がある。」




耳に入ってきた言葉は意外なもので、見上げた中佐は今まで見たことがないような少し、優しげな顔をしていた。



「……っ…………はいっ……」



思い切り唇を噛み締める。
その優しさが心に響いたけれど、もう私の目から涙が溢れることはなかった。




いや、今後一切、きっと私は涙を流さないだろう。



昨日まで、直ぐに溢れ出た涙にはもう慣れてしまった。



スパイなのだから、と涙を隠して、悲しくないんだと自分の心を偽った。




壊れそうな、自分の為に。




: : :


「御幸君！！」



私の鼓膜を揺らした声に振り返れば、あの日以来全く会わなかった彼女、エミリー=アネルカが息を切らしながら此方へと走ってきた。






日本へと戻ることになった私は、早速「日本に住んでいる自分の母が危篤らしい」と嘘を伝え、大学を辞めた。


日本に帰れば、御幸啓介はこの世に存在しなくなる。


自分の変装と偽名に感慨深いものを感じ、日本へと帰る飛行機を待っていたところで、冒頭に戻る。




「…エミリー……今日の講義は…？」


「私……御幸君に……伝えなきゃ…いけないことが……あって……」



息切れする彼女の背をさすり、呼吸を落ち着けることを促す。

此方を見つめる青い瞳は、いつか見た弱々しいものではなくて、しっかりと意志を持ったもので、それはいつの日か、スパイになると覚悟を決めたあの日の自分にそことなく似ていた。




「ゆっくりでいいよ。便までまだ時間はあるから。」




「好き」

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