ピアノとバレー (白布 賢二郎) 2

芹那side ページ46

まって、きこえなーい、みたいな顔やめろ。


おっかしくない！？


今こいつ、さらっと可愛い、って言ったのに。


待ち合わせであたしの浴衣姿見た時さ、


目、一瞬見開いただけでなんも言わなかったじゃん！


あたしはあかりみたいに鈍くないから。


さっきから、



「あの子可愛くね。」


「うお、マジじゃん！ていうか可愛い、っていうより美しいだろ。」


「俺知ってるあの子。白鳥沢の芹那ちゃんだ。」



こういう声、聞こえてんの！


ウザいかもだけどあたしモテるから。


美人、って自信あるから！


つまりよ？あたしの浴衣姿が可愛くないなんてないと思うんだよね？


・・・なのにこの無表情野郎は。


いや、あたしだって最初は、


照れてるから言えないだけなんだろうな、って思ってた。


・・・でもさ、こうやってあかりは褒めてんの見るとさ。


・・・・嫉妬するじゃん。



川「菅野？」



何も知らないみたいな顔しやがって・・・



芹「・・・・はあ。」



あたしはため息をついた。


ちぇ、ドキドキさせられなかったか。


仕返し失敗。


もーいいよ、どうでも。



芹「ごめんごめん、あたしが自意識過剰だったみたい。ほら行こ。」



あたしは屋台の方へ歩き出した。


その時、


ぱし、とあたしの手首が掴まれる。


驚いて振り向くと、


川西がいつもと同じ無表情で私を見つめていた。


・・でも、その瞳の奥には、焦りのようなものが見える。



芹「・・・川西？」


川「・・なんか、ごめん。」


芹「は？」


川「最初、言おうと思ったけど、なんか、・・恥ずいじゃん。」


芹「・・何？ていうか何が恥ずかしいって？」


川「いや、面と向かって言うのはさ・・・まあいいや、言うよ。」



ごほん、と握った手を口元に当てて、わざとらしく咳払いする川西。



川「・・・すごい、綺麗だと思うよ。浴衣姿。」



手を口元に当てたまままっすぐあたしを見てそう言った川西は、すぐに目線を外した。


・・・・え。



芹「・・・・・」


川「・・なんか言えって。恥ずかしいじゃん。」


芹「それさ、本心から言ってくれてるの？」


川「え、嘘っぽい？」


芹「ちょっと。」



あたしがそう言うと、


えええ・・、と言いながら片手で顔を隠して下を向く川西。


・・・っ。


どうしても笑いが込み上げてくる。


ごめん川西。本心、って分かってるよ。


赤くなってる耳をみればすぐわかる。


ただ、真剣な目に、いじわるしたかっただけ。

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