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「ありがとうございました！明日から残ってもこれで大丈夫です！」
あんまり残らない方がいいんだよ。という言葉を飲み込んで、当たり障りない言葉を探す。
「それはよかったです」
エレベーター乗り込んでドアが閉まると沈黙が流れる。
きっと、今しか言うタイミングない。
「午前中はごめんなさい」
「へ？」
「ちょっと仕事でイライラしちゃって、良くない態度取ったこと。反省してます」
文字だけじゃなくて、言葉にしないと。
いつだって私に足りないのは言葉だ。
「いや、俺も言われたこと守ってへんかったから」
エレベーターを降り、自然と駅まで一緒に歩くことに。
体調は大丈夫？というよく分からない質問に曖昧な返事を返してからは、お互い言葉を発さず、黙々と歩く。
沈黙を破ったのは「あのさ」という重岡の呼びかけだった。
つい足を止めると、重岡が半歩前に進んで私の方へ体を向ける。
「Aは嫌かもしれんけど、やっぱり普通に喋りたいし、2人の時は昔みたいに呼び捨てで呼びたい」
まっすぐ目を見つめられ逸らせない。
「俺、歓迎会の時、刺身分けてくれたの嬉しかってん。ちょっと距離感縮まったかなって。前みたいになれるんかなって。
何か嫌なことしてたら謝る。今のことでも昔のことでも。ただ、」
ふぅっと一息をついて
「12年間を無かったことにしたくないんよ」
少し震える声でそう言った。
“無かったことにしたくない”
どうして、重岡は私にここまで言ってくれるんだろう。
避けるようになってからも、目が合えば笑いかけてくれて、話しかけてくれて。
このまま彼を自分の勝手で蔑ろにするのは、ものすごく失礼だ。
「2人の時なら、いいよ。呼び方も、喋り方も重岡の好きにして」
「ほんまに？」
さっきまでの泣きそうな顔から、みるみるうちに笑顔に変わっていく。
「うわ、むっちゃ嬉しいんやけど！！やった！！！」
そんなに喜ぶのかと思いながらも、自分も嬉しい気持ちになっていることに気づく。
本当は重岡と普通に話したかった。
避けたくなかった。
「ずっとごめんね」
「Aは謝ることしてへんよ。だから謝らんでええ」
そう言って頭を撫でられた。
「ごめん、これは調子乗ったわ」
サッと手を離し、さぁ、帰るで。と歩き出す背中を早足に追いかけた。
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作者名：浅葱 | 作成日時：2021年11月4日 20時
