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カタカタとキーボードを叩く音だけが響き渡る、静かな夜のオフィス。
定時を知らせるチャイムが鳴ってから３時間ほど経ち、そろそろ社に残る人もまばらになってきた頃…。
「よーしっ！ようやく終わったぁ…」
パタンとノートパソコンを閉じて、向かいのデスクの彼女がうーんと大きく伸びをする。
…猫みたい。可愛い。
「お疲れ様です、一ノ瀬さん」
「お疲れ。櫻井くん」
声をかけて目が合うと、にこっと目尻を下げて柔らかく微笑んでくれる。
あぁ…。くっそ何だよこれ。溶けそう。
他の残っている社員にもお先に失礼しまーすって、軽く会釈して。
カツカツとヒールの音を鳴らして颯爽とオフィスを出て行くAさんの背中をぼんやりと見つめる。
くるんとゆるく内巻きにしてある栗色の髪が、今日も一段と可愛かったなぁ…。
なーんて思ってる俺はもう、かなりの重症だ。
「おーい櫻井くーん。いつまでにやけてんのよ(笑)」
俺の斜め向かい…________
Aさんの左隣のデスクの二宮さんに声をかけられてはっと我に返る。
「分っかりやすいねぇ相変わらず(笑)」
「………すみません」
ノートパソコンの横からひょこっと顔を出した二宮さんが、俺を見て呆れたように笑う。
二宮さんは俺の２個先輩で、Aさんの同期だ。
地頭の良さに加え、鋭い観察力を持ち合わせていて。
俺がAさんに好意を寄せてることにも真っ先に気付いた。
…まぁ、それからは何かとAさんのことで恋愛相談に乗ってもらったりしてるわけだけど…。
正直なところ俺は、この二宮さんのことがすげー苦手。
なんつーか、何でも見透かされてるような気がして…さ？
もちろん仕事は出来るし、会社の先輩として尊敬はしてるんだけど…。
「いいの？今日は追いかけなくても」
「いいもなにも…。こないだ断られたばっかですし」
「んなの関係ねぇよ。当たって砕けろだ(笑)」
「いやいや、砕けちゃ困りますって…！！」
俺の言葉にふはっと短く息を吐き出すようにして笑った二宮さんは。
視線をパソコンの画面に戻すと、カタカタとキーボードを叩いてもう仕事を再開してる。
…さすが。仕事が出来る男は切り替えが早い。
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作者名：りま | 作成日時：2016年8月22日 7時
