酒で泳ぐ煙 ページ43
何十回と見た。
この赤い字は。この間違い方は。
焦る彼女達は。失望が滲む目は。
*
頭にきたからこそ思いっきり、
未練をはらすようぶん殴ったのである。
殴られた相手も激昂して、
近くの酒瓶を取って脳天を仕留めた。
｢いいよ、あんた!そのままやっちまえ!｣
｢あいつ、舐めた仕留め方しやがって…｣
ここは酒場だったはず。
大人が居てもいい最高の空間だ。
荒んだ神託の中でも選りすぐりの酷さ。
この間違いを見るのに、TomoreもDragも
それぞれお互いに50ユーロ払う。
｢それ、足を先に潰しちまえ!｣
｢おい、そのオイル突きつけちまえ!｣
こうして、赤々としたオイルライターが
一晩に3、4つ集まってきてくれる。
ここは火気厳禁なのである。
夜が明けるのを待って尺度も無い酒を
1mlずつ口に流す。
どうせ酒は口の中でも蒸発してしまう。
あるいは、喉奥で味だけ残し、落ちる。
そのくせ神を存分に酔わせる。
そう、この殴り合いも同じ。
それこそ酒より神の注目を
豪雨のように浴びる。
これがfell。
失脚も相まって楽しい街だろう。
楽しんで見てる訳にもいない二人は、
客の賭けに適当に応じ、ばっくれる。
何百万の対価が必要でも、
ここは店であり、やはり彼の家のよう。
賭けに負けることは無い。
Tomoreが整理を始めればナイフが飛んで、
Dragが何かを吸えば誰かが急に座り込む。
それも、麻酔に掛かったように。
この客は彼の敵が多い。
彼に火種を握らせた小心者は、
ここに集って彼の居心地よい傘下に入る。
無論、Tomoreにすればいい気分では無いか。
ここがfell。
大きな富さえあれば上に昇れる。
住みやすい街だろう。
｢なンでこんナ事したんだロうネぇ｣
自らの富を否定しても、残るものは無い。
｢……な｣
彼らも、またこいつらも、
ここしか帰る場所はないだろう。
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作者名：Patricia | 作成日時：2018年5月12日 20時
