【完】勝手に財布にお金入れないでください【九井一】

10,杞憂 ページ28

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　目が覚めると病院にいることが分かって、あぁ、生きてたんだなぁ、と取り敢えず少し喜んでおいた。でも身体の筋肉が硬くなって全然動けなくて、看護師さんが朝私の様子を見に来てぱちぱちと目を開いている私に気付いてすぐに部屋を出ていった。
　それから少ししたら、すぐに戻ってきて看護師さんは嬉しそうに私に言った。


「おはようございます。葛原さん、九井さんすぐ来てくれるそうですよ」
「え、あ、…九井さんが……？？」
「毎日葛原さんのお見舞いに来ていらしてましたよ、素敵な恋人さんですね」


　にこにこと言う看護師さんの言葉が驚きでよく理解出来ないでいた。毎日、九井さんが私のお見舞いに来てくれたの…？と全然信じられなかった。それはもう嬉しいけれど、半信半疑だった。
　それから1時間と経たずに病室の前で足音が止まった。これで九井さんじゃなかったら恥ずかしい、と思って私は看護師さんですか、と声を掛けるとガラッと引き戸が開け放たれて、私が九井さんだと認識する前にその人に抱き締められた。

　赤いチャイナ服を身にまとっていて、綺麗な長い白髪は九井さんだと直ぐにわかった。少しだけ、ほんの少しだけ驚かせてみようかな。


「え、…あ、の……すみません、記憶が…無くて…」


　ちょっと後悔した、少しのイタズラ心のつもりだったのになんだか凄く謝られてそれだけには留まらなかった。


「A好きだ、愛してる」
「ちょ、っと、あの」


　冗談…？じゃない…？まさか九井さんからそんなことを言われるとは思わず頭がショートする。取り敢えずこの危険な九井さんを止めないといけない、と思って頑張って身体を起こして九井さんの肩を掴んで、全部覚えてます、と伝えると九井さんは意味が分からないという顔をしてから溜息をついた。


「あの、九井さん…私も九井さんのことが好きです。勘違いじゃないですよ…？」
「……いいのか、オレなんかで。いいか、これからオレがしてきたこと全部言うぞ、オレのことが嫌いになるぞ」
「ぜ、全部…？」


　何故か突然拗ねるような、子どもっぽく反抗するように私にそう言って、話し始めた。私は少しそれを覚悟して九井さんが言う言葉を聞いた。



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