【完】勝手に財布にお金入れないでください【九井一】

8,不運 ページ19

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　一人でいるには大き過ぎる家の中、九井さんに渡されたカードキーを受け取れずにいればそれは床に落とされて、私は理解が追いつかず何も言えないでいるうちに九井さんは出ていき、本当に私をここに残して行ってしまった。
　車が走り去る音を聞いて、初めてがた、とカーペットも敷かれていない床に崩れ落ちた。


「ここのい、さん…」


　口に出してしまうと、堰を切ったようにボロボロと涙が溢れて、幼子のように声も惜しまずに泣き叫んだ。家の中に私の声だけが響き渡って、私は本当に独りで、九井さんに自分は捨てられたんだと酷く感じさせられる。


「ここのいさん、…九井、さん…」


　生きた心地がしなかった。これから私はどうすればいいんだろう。頭の中は真っ白で何をする気にもならない。もしかしたら、また九井さんが迎えに来てくれるんじゃないか、とかまた叱られてATMの前に一緒に連れていかれたり、財布のチャックが閉まらなくなるくらい札束が入れられて家に一緒に帰る。そう、いつものようになるんじゃないか、て思い続けても九井さんは私の前には現れなかった。

　涙は枯れて、目も腫れて痛くて視界が狭い。ひとまずメイク落とさないと、と新しい家になってしまった家の中の洗面所に向かった。


「…ひどい顔」


　メイクも崩れて、九井さんに綺麗だと言って貰えたとは信じ難い。何をしても九井さんのことしか考えられないことが嫌になって、さっさとメイクを落としてお風呂を済まして、リビングにもう配置されていたソファに倒れるように転がって、死ぬように深い眠りについた。


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　突然始まった一人暮らしは驚くほど、不自由なことはなかった。九井さんは最初から私を捨てるつもりだったんだと気付いた。多過ぎる程の大金は私が一人でも生きていけるように与えられていたんだ。そりゃあ、最初からその気なら言ってもやめないはずだ。


「私の想いは迷惑だったんだ」


　涙も出なかった。こんなに自由なのに、何も幸せに感じない。沢山ある段ボールも、全部九井さんがくれた物しかない、ずっと考えてしまって辛くてもう消えてしまいたい、それなのに九井さんがくれた物を段ボールから出してクローゼットとかに整頓しようなんて、できるわけがない。きっと狂って自分もよく分からなくなってしまいそうだから。


　ひとまずあの日から3日後、久しく見ていないスマホを充電して、起動させるとヒナちゃんからのメッセージだけ通知されていた。



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