口論 ページ33
「ちょ、Aどこに……」
アタシは麻衣を人気のない廊下に連れ出した。
近くに誰もいないことを確認すると、麻衣に向き直る。
「麻衣はこれでいいの?」
「え……?」
こんなの、とても人前で話せるようなことじゃなかった。でも、どうしても麻衣にはこれを言わずにはいられなかったのだ。
「これでって、どういうこと?」
「だって、もうナルには会えないんだよ……!」
言った言葉に涙が滲む。
アタシは知っていたのだ。麻衣から直接聞いたわけでも、話しているのを聞いたわけでもない。
それでも、わかっていた。
「アタシは、好きだよ!ナルのこと」
「A……」
「麻衣だって、同じでしょ……?」
アタシだって、麻衣にそれを言ったことはない。でも、お互いに確かに心の中で気づいていたんだ。
アタシたちは、ナルが好き同士であるということを。
ひそかに「麻衣とはライバルなんだなー」なんて思ったりして、綾子や真砂子なんて実は眼中にもなくて、ただ麻衣と同じものを好きになってしまったということだけが、アタシの胸を占めていた。
だからって、麻衣のことを嫌いになったり疎ましく思ったりはしない。
お互いに頑張ろうって、そう思えてたのに。
別れ際の、麻衣の言葉。
『……ああっはい、わかりました!戻ればいいんでしょ?絶対見送りなんかしてやんないんだから!』
アタシにはこの言葉が、とても辛かった。
ナルと麻衣は、決して仲が良いとは言えない。ナルは本っ当に口が悪いし、麻衣も絶対に退かない。
いっつも言い合いになって、衝突して、それでも麻衣はナルを好きになった。
それなのに、あの言葉だ。
本当は麻衣だってそんなこと言いたくなかっただろうと思う。
最後くらい、部下として、綺麗に別れたかったはずだ。
素直になれなかったのは仕方のないことかもしれないけど、でもそれじゃああんまりだよ……。
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作者名:椎名羽流 | 作成日時:2017年12月13日 0時