PARACAGE 9th【ars】 (ページ40)

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320.レトロ。ページ40

「Aちゃんは可愛い妹だったのにーって」

智くんが、ふふって笑う。

「そうだね、可愛い妹だった」
「翔さんまで、お世辞をありがとうございます」
「お世辞？え？智くんはお世辞で言ったの？」

キョトンとした翔さんが、私を飛び越えてその隣に居る智くんに話しかけた。
智くんが今度は、ケラケラ笑ってる。

「翔くんはお世辞なの？」
「お世辞なんか言わないよ。お世辞って結局、嘘だからね？」
「きょくたーん！」
「僕は本当にAさんはチャーミングな女性だと...」

思わず翔さんに掌を見せて、言葉を制してしまった...。
この人はこの先もバッタバッタと女子の屍を作り続けるつもりだな...しかも無自覚で。恐ろしい。

翔さんはその後、『ペンキ塗り立て』って紙をドアの前の床に貼った。
それに気付かなかった雅紀くんが、「真っ白！」ってドアを触っちゃって綺麗な手形が付いたのをニノくんにしっかり見られてた。

私達が家を出る、数日前の夜の話。

・

雅紀くんが表紙を飾る、最後のメンストが発売された日。
パーティー好きなテラハウスの面々は、『咲・お疲れ様会』を開いた。
メンストの表紙を何枚もコピーして来たニノくんが、それを部屋中に貼って爆笑してた。
「やだー、キモイー」って。自分で貼ったのに。

その写真は、私が初めて咲くんを知ったあの時の表紙と同じポーズと表情だった。
睨んでるのか、笑ってるのか、どっちにも見えるあの咲くん。

私はコッソリ自分の部屋でそのメンストを抱き締めて、泣いた。
大好きだったモデルの咲くんとの、これが本当のお別れだ。

雅紀くんはもうすっかりモデル感は抜けてる...と言いたい所だけど、仕事が仕事だからそんなに雰囲気は変わってない。
ニノくん曰く、雅紀くんが前に同じ会社で働いてた事を知らなかった世代の社員さん達は彼が出社して来た時に腰を抜かしてたらしい。

「でもな、恐ろしい事に人間って慣れるんだよ。一週間もすれば、アイツも普通の社員と一緒」

彼は笑いながら、そう教えてくれた。

一緒に暮らす家は、お互いの職場の真ん中辺りになる場所で見付けた。
部屋は一個で広いリビングの1LDK。
日当たりの良い部屋が良いねって探して、南向きの大きな窓があるマンション。
その窓からは、桜並木が見える。

決して新しくなくて少しだけレトロなその家はちょっとだけテラハウスっぽくて、言ってないけどきっと雅紀くんも私もそこが一番気に入ったんだ。