PARACAGE 9th【ars】 (ページ16)

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296.自惚れ。←1.22 ページ16

「待って...ちょっと待って...何で...」

どうして潤くんが出て行かなきゃいけないの。
出て行かなきゃいけないとしたら、それは

「私が出ていくから...！」

どう考えても、私だ。
私が出て行けば、潤くんは今まで通りテラハウスで暮らせるはずだ。
私が居るから、潤くんは出て行こうとしてるんだ。

「俺が出て行くって言ってんだけど」
「でも、だって、潤くんが出て行く必要なんか無い！」
「いや、出て行く必要があるから出て行くんだってば」
「無いよ！無いってば！」
「だーかーら！俺の事情をお前が勝手に決めんな！さっきから一体何なんだ！」

潤くんが、ケラケラ笑い出した。
何で笑うの、ワケが分からない。

「もしかして、Aは俺が出て行く理由が自分のせいだと思ってんの？」
「.....うん」
「自惚れんな」
「...へっ？」
「俺が出て行こうか悩んでたのは、かなり前から！翔さんにも相談してたし」
「...そうなの...？」

そうなの、と潤くんは大根を頬張る。
私は全然食べる気になれないし、何ならビールも全く減ってない。

「俺、失恋して気まずいからとか、Aと雅紀を苦しくて見てられないからとか、そんな乙女な理由で自分の人生決めないですけど」

そう言われて、確かに潤くんはそうかもしれない...と思った。
色んな意味で、マイペースを崩さない人だ。

「ずっと今後の自分のビジョンっての？考えてて、この辺でそろそろ...ってのはあったんだよ」
「今後の...」
「俺、来月から有給消化」
「有給消化...って、えっ！？え、それって...」
「うん」

ビールおかわりー、って潤くんが空っぽになったジョッキを持ち上げる。

「会社を立ちあげようと思ってて」
「...会社を？」
「そ。仲間と3人で前々から考え始めてて、もう実は8割方諸々決定してる」
「もうそんなに...」
「オフィスを沖縄に置く事も決まってるし」
「おっ...沖縄！？」
「だから、どっちにしても家は出なきゃ駄目だったワケ」

突然の話に、混乱しそう。
潤くんが仕事を辞めて、会社を立ち上げて、沖縄に行ってしまう。

「あ。夏に俺、沖縄行っただろ？」
「うん...」
「あれ、遊びじゃなくてオフィスの物件探したりしてたんだわ。あの時一緒に行った奴らと起業すんの」

あの夏、潤くんを迎えに来た二人の男性を思い出す。

類友だなぁと思ったスマートな雰囲気の二人。
何だか根拠は無いけど、その会社は絶対に上手くいきそう...と感じた。