PARACAGE 9th【ars】 (ページ15)

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295.乱れた秩序。ページ15

「俺ばっか喋ってたわ、ごめん。Aの話って？」

そう言い終わると巾着をパクっと食べて、んーって唇で伸びるお餅を引っ張ってる。

「あ...あの、私...」
「うん」
「雅紀くんとちゃんと話して...何考えてるのかも聞いて、私も言いたいコト言って...」
「うん」
「......それで...」
「付き合うんだろ？え、付き合ってんのは元々か。あ？付き合ってたっけ？」

潤くんはちょっとからかうように、片方の口の端を上げた。

「...潤くんが、私なんかをって...嘘みたいだし、光栄過ぎるし、来世の分のモテ期まで使い切った感じだし、今でもちょっと信じらんないし...」
「ハハッ。来世って俺、何者なの」
「......だけど...」
「雅紀だけがどうしても好きなんだろ？」
「......」
「そんなの、告る前から分かってるって。俺がお前の気持ちを揺らせなかったってだけ」

大皿から、今度は大根を小皿に取ってる。

「...潤くん」
「ん？」
「潤くんならすぐに...」
「『素敵な人が現れるよ』とか言うなよ？」
「え...？」

綺麗にお箸を使って、大根を半分に割って、もう半分。
四分の一にした大根を彼は食べずに、私を静かに見た。

「今の俺には、Aしかそういう対象で見れないんだから」

悲しい笑顔って、向けられた方も心が痛むんだ。
潤くんのその表情に、胸が痛くて苦しい。

「Aは素敵なのかって言われると、素敵か？って思うんだけどねぇ」
「......」
「愛おしいのが素敵って事なら、素敵なんだろね」
「......」
「うわ、もうやめてくれって顔してる」

ハハッ！って潤くんが今度は可笑しそうに笑った。

「お前があの家に引っ越して来て、俺らは変わったんだ」
「......」
「それまでは性格も仕事も何もかもバラバラなのに統制が取れてたし、おかしな部分があっても俺らなりの秩序は守られてた」
「...うん...」
「だけど、結構簡単にバランスは崩れた」
「......」
「誰が秩序乱してんだよ、って」

...それはきっと、私だ。
秩序を乱してしまったのは、私。

そう、答えようとしたら潤くんが「...それ、俺なんだよな」って困ったような顔をした。

「横恋慕は、やっぱルール違反だ」
「......」
「でも、お陰でやっと決心できた」
「...決心？」

彼はやっと大根を口に入れて、ビールで流し込むと

「俺、あの家を出るわ」

楽しい話をしているような表情で、「出て行くわ」ともう一度繰り返し言った。