PARACAGE 9th【ars】 (ページ14)

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294.待ち合わせ。ページ14

仕事を終えて向かったそのお店には、まだ潤くんは来ていなかった。

「あの、待ち合わせなんですけど...良いですか？」

カウンターの中からあのオジサンが「良いよ！こっちとあっち、どっちにする？」と訊いて来たから「じゃあ、こっちで」と、テーブル席の方に座る。
すぐにバイトらしき店員さんがお絞りとお水を持って来てくれたから、注文は連れが来てからで、と頭を下げる。

21時を少し過ぎた頃、彼はやって来た。
濃紺のスーツに、黒いトレンチを羽織ってる。

オジサンの「いらっしゃい！」って声に「こんばんは」って応えて、こっちに歩いて来た。

「お待たせ」
「ううん」
「はぁ、疲れた」
「お疲れさまです」

潤くんはコートを脱ぎ横の椅子の背凭れに掛けて、腰を下ろした。
そして徐にテーブルに置いてあるお絞りを手にして目元に当てて、ギューっと押さえた。

「...あ、こーゆーコトすんのってオッサンなんだっけ」

目元からお絞りを外した顔は、全然オッサンには見えない。
何ならちょっとスッキリした目元になってて、余計に彫刻感。

「とりあえず注文しよ。腹減ったし、飲みたい」

そう言うと手を挙げて、近寄って来た店員さんに潤くんは「適当で良いよね？」とサクサク注文。
すぐに運ばれて来たお互いのビールジョッキをコツンと合わせると彼は「何の乾杯だよ」って、小さく笑った。

「で、話って何？」
「あ...」
「お前らは揃いも揃って、俺の傷口に塩を塗るんだな」

『お前ら』が私と雅紀くんだってのは分かるから、どんな言葉から話し始めたら良いのか迷う。

「アハッ、そんな顔すんなって。ウソウソ、昨日の雅紀も普通に『怒らせてゴメン』って謝って来て、仕事内容黙ってた理由とか話してただけだし」
「......」
「まぁ、これから雅紀がAとどうして行きたいだとか...そんな話は聞いたけどね」
「これから...？」
「俺からは言わないけど。ってゆーか、言いたくないけど」

潤くんがビールを飲んで、突き出しのホウレン草の胡麻和えを口に運ぶ。

「あーそれから、安心して良いよ」
「...え？」
「俺がAに告白した事は、雅紀にまだ言ってないから」
「......」
「アイツに変な気を使われたくないし」

フっと笑った潤くんの前に、大皿に盛られたおでんが置かれた。

「恋敵に遠慮されんのも同情されんのも、俺の自尊心が傷つく」

大皿から餅巾着を手元の小皿にとって、「うまそ」と彼は呟いた。