PARACAGE 9th【ars】 (ページ42)

今日:9 hit、昨日:6 hit、合計:1,204,607 hit

322.檻のような楽園。ページ42

大きな荷物は、もう全部業者さんに運んで貰った。
小さな荷物は、翔さんに車を借りて新居に運ぶことにした。

備え付け...と言うか、元々あったベッドとお布団だけを残して何も無くなった自分の部屋。
初めてここに来た時は、不安しか無かったっけ...なんて思い出す。

最後に掃除機をかけてると、開けっ放しだったドアから雅紀くんが入って来た。

「もう終わりそ？」
「うん、終わる。雅紀くんは終わった？」
「終わったー！掃除疲れたー！」

そう言うと、彼はベッドに大の字になって寝そべった。
私も掃除機を止めて、ベッドに腰掛ける。

「雅紀くん、お疲れ様なんだけどもう一個お仕事残ってるよ？」
「...あ、そうだった。大事な仕事ね！」

ムクっと起き上がった雅紀くんが「おーちゃーん！」って部屋を出て行って、数秒後戻って来た手には白いペンキと刷毛が二本。
私達はそれぞれ自分の部屋のドアの前で刷毛を手にする。

綺麗なさくら色のドア。
そこに、白いペンキを重ねて行く。
雅紀くんも、黙って鶯色のドアを白く塗って行く。

だけど、ある場所で手が止まってしまった。
それは雅紀くんも同じみたいで、私の方を見て少し悲しそうに笑った。

「この桜、消すの勿体ないね」

ペンキを塗れなかった場所はお互い同じ。智くんが描いてくれた、小さな桜。

「せーの、で一緒に消そうか」
「...うん、分かった」
「じゃあ行くよ？せーの！」

目を閉じて、ドアを刷毛で撫でた。
目を開けると、そこに桜はもう無かった。

真っ白なドア。
無意識に涙が流れて、雅紀くんにバレないように「暑いねー！」なんて汗を拭くふりをして涙を拭く。
だけど雅紀くんは何も言わずに私の肩を抱いて、頭を寄せた。全部バレてる、カッコ悪い。

「ねぇ、Aちゃん。ちょっと外の空気吸わない？」

ペンキの匂いの廊下から私の部屋に二人で入って、窓を開けた。
ここからの景色を見るのも、これが最後。

テラハウスの庭と、その向こう側に桜香寺。

「この家、楽しかったね」
「...うん、楽しかった」
「まぁ俺達二人でも、楽しくする気満々だけどね！」
「うん、パーティーもしよっか」
「かき氷作るヤツ、ここから持ってても良いかな」

どこかから犬の鳴き声が聴こえる。

その声に驚いたように、青葉になった桜の樹から

鳥が二羽、空へと飛び立った。

・・・・・『PARACAGE』END・・・・・