PARACAGE 8th【ars】 (ページ8)

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253.ESPER。ページ8

翔さんは「こちらへどうぞ」と、本堂から続く廊下へ連れて行ってくれた。
そこからは、きちんと手入れされたお庭が見える。

「綺麗なお庭ですね」
「枯山水は、心を落ち着けてくれますよ」

ここで待っていて下さい、と翔さんはどこかへ行ってしまったから私は縁側のようになってる廊下に体育座りしてお庭を眺めた。
翔さんが言ってたように、見てるだけで落ち着いて来る。

暫くして戻って来た翔さんの手にはお盆。
その上には、湯飲み茶碗が二つとお饅頭が一つ。

彼は私の隣に正座をして、湯呑みを手渡してくれた。

「コーヒーを美味しく淹れるのは潤に敵いませんが、お茶なら僕の方が上手に淹れられると自負しています」

フフ、と笑った翔さんが私の傍らにお饅頭の乗った小皿も置いてくれる。
綺麗な色をした緑茶を飲んで「美味しい...」と呟くと、翔さんが「そうでしょう」と少し得意気に言った。

彼も美味しそうにコクコクとお茶を飲んで、ほぉ...と小さく息を吐く。
時間がゆったり進んでるような、でも翔さんの周りに漂う空気はそんなに緩くなくて、不思議。

「翔さん、私とお茶してても大丈夫なんですか？」
「ここなら、何方かいらっしゃったらすぐに分かりますから。門徒さんなら、声をかけてくれるでしょうし」

そう言って、ズズっとお茶をもう一口。
そして、こちらを見てキュっと口角を上げる。

「Aさん、何かお悩みですか？」
「えっ？」
「この所、ずっと元気が無いなと思ってました」
「あー......」
「明日から雅紀と離ればなれだから、ですか？」
「そういうワケでは無いんですけどね...」

一週間会えないのは寂しいけど、今だってろくに顔を合わせていない。

「雅紀くんの行き先に...ちょっと不安があって...」
「ロンドンですよね」
「...翔さん、知ってたんですか？」
「僕は何でも知ってます」
「じゃあ、雅紀くんがどんなお仕事をするのかも...？」
「はい」
「お仕事の相手が誰なのかも...？」
「えぇ。テラハウスの責任者ですからね、何でも把握してますよ」

翔さんの大きな目がフっと細くなる。

「...雅紀くんから聞いたんですか？」
「いえ、雅紀からは何も。実はエスパーなんです、僕」

ありえる...。
この利発そうな目は何でもお見通しって感じだし、触れただけでその人の過去やら未来やらも分かっちゃいそうな雰囲気だ。

黙って翔さんを見ていると

「って、嘘ですよ？」

彼はフハッ、と吹き出した。