PARACAGE 8th【ars】 (ページ27)

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272.大将は。ページ27

皆がそれぞれ潤くんに注文して、お皿におでんを盛ってもらって。
潤くんも好きな物を食べて、飲んで。

「大将が飲んでもいいの？」
「お客さん、俺にも飲みたい時ってのがあるんっすよ」
「あれ？それ、いつもじゃないですか？」
「あ、バレました？」

簡易カウンターで、潤くんとおでんを挟んで内容の無い話をする。

私達以外の3人は「寒い寒い」とリビングの中に入ってしまってる。窓は開けっ放しだけど。
おでん注文の時だけ庭に出て来るスタイル。
何なら、テレビなんか観始めちゃってる。

おでんの具材も無くなって来て、潤くんも「残りは茶碗蒸しにでもするか」ってお鍋の中身を確認した。
そろそろお開きかな？
飲んでたビールを一気飲みして無くした時、潤くんが「お客さん」と声を掛けて来た。

「最近どーですかー？」
「えっ？あー...フフッ、今日は楽しい」
「今日は、ね」
「揚げ足取るねぇ」
「そ？そんなつもりは無いんだけどね」

ねじり鉢巻で、意地悪な笑い方。
悔しいけど、無敵！って感じ。

「ねぇ、大将は悩みとか無いの？」
「俺？」
「誰かに助けて貰いたいなーって、思ったりする？」

潤くんが誰かに頼ってるのは、見た事が無い。
誰かが潤くんを頼ってる場面なら、いくらでも見た事あるのに。

「俺、悩みは自分でしか解決出来ないって思ってるからなぁ」
「そりゃそうだけど...でも、話したらラクになったりもしない？」
「それも分かるんだけど、俺は自分の重荷を誰かに背負わせらんないなーって思うから」
「重荷...」
「悩み相談って、結局『秘密の共有』だから」

潤くんが長い睫毛を伏せる。
でもすぐに私を見て、ホクロが飾る唇の端を上げた。

「ま、お前みたいに皆が悩みの原因を知ってる場合は、大いに話せば良いと思うけどね！」
「いてっ」

ペチッとおでこを叩かれた。
痛い。

「さてと。アイツらも寝そうだし...」

彼の言葉にリビングを振り返ると、3人共ゴロゴロしてる。
智くんに至っては、ソファで完全に寝てる。

「そろそろ、Aも風呂入って寝なさい」
「うん、そうする。ごちそうさま！」

手を合わせると、「お会計がー...」って潤くんがエアそろばんし始めたから「逃げろ！」と私は部屋に走り戻った。

その日は、お酒が入ったせいもあるかもしれないけど久し振りによく眠れた気がした。

夢を見たんだけど、どんな夢だったっけ。
覚えてない。
ただ、起きた時にすごく幸せな気持ちだった。