PARACAGE 8th【ars】 (ページ15)

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260.ルール。ページ15

「今、Aさんはどう思ってますか？」
「え...？」
「気持ちを言えなかった事に対して」
「.....逃げてるなーって、思います」

声に出して言うと、本当に自分が情けなくて体育座りした膝に顔を埋める。

「何か...きっと後悔してるんだと思います、私」

そのまんまの体勢で話したから、ちょっと声が籠った。

「後悔？」
「...はい。気持ちを伝えておけば、もしかしたらこんな憂鬱にならずに済んだかもしれません」
「うん」
「逆にボロボロに傷付く事になったかもしれないですけどね！」

アハハーと笑うと、その声もやっぱり膝の中で籠った。

「じゃあ、伝えに行きましょう」
「へっ？」

顔を上げると、翔さんが「今から、雅紀に伝えに行きましょう」ともう一度言った。

「え...どうやって...」
「空港に行けば良いんです」
「でも...フライトの時間、知らない...」
「僕が知ってます。エスパーですから」
「えっ！？」
「嘘です。本当は雅紀から聞きました」

少し意地悪な、口角を下げた笑顔。

「住民に何かあった時、誰か一人でも全てを把握してなくちゃならない。だから、旅行なんかで飛行機や新幹線を使う時は僕に報告するルールがあるんです」
「そうだったんですか？」

まだ知らないテラハウスルールがあったのか...。

「Aさんも、旅行の際は報告して下さいね」
「あ、はい」
「話が逸れましたね。とゆー訳で、僕は雅紀のフライト時間を知ってます」

翔さんは壁掛け時計を見上げ軽く舌打ちをして「ギリだな...」と呟く。

「電車では間に合いませんね、僕が送ります」
「えっ」
「渋滞に巻き込まれると大変なので、バイクで行きましょう」

彼は立ち上がり、開けていた窓を閉め施錠した。
そしてカーテンをサッと引き、リビングを出て行く。

「あのっ、翔さん...！」

追いかけるように廊下に出ると、2階へ上がろうとしてる翔さんが振り向いた。

「寒いので上着を着ましょう」
「...でも、心の準備が...」
「そんなものは、移動中にすれば良い」
「だけどっ...！こんなの、雅紀くんの迷惑になるんじゃ...」
「そうやって貴女は、自分に言い訳ばかりしてたんですね」

ハァ...と溜息を吐いた翔さんが昇りかけてた階段を2段下りて、私の前まで戻って来た。

「後悔してるんでしょう？」

俯いた私の顔を、下から覗き込む。

「.....」
「ん？」
「後悔...してます...」

そう応えると

「世話の焼ける人ですね」

彼の手が、頭にポンと乗った。