PARACAGE 8th【ars】 (ページ6)

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251.仕事。ページ6

「私、海外旅行に行く時はレンジでチンするご飯を持って行ってるよ」
「やっぱり？絶対に和食が恋しくなるよねー。おうどんとかも食べたくなるかも」

うーん、って考えてる雅紀くん。

「.....あの」
「ん？なに？」
「海外って.....どこ...なのかなー？と思って...」

隣の雅紀くんを見ずに訊く。
少しの沈黙も耐えられなくて「そう言えば聞いてないなーって！」なんて言ってみたりして。

「アジア？アメリカかな？それとも.....ヨーロッパ？」

出来るだけ重くならないように自然に訊いてるつもりだけど、ヨーロッパだけ喉が詰まったかもしれない。
緊張が伝わらないように、「良いなぁ、お仕事で海外」って笑ってみる。

「どこだったかなぁ」

雅紀くんの声は、何の動揺も無くいつもと同じように聴こえた。

「忘れちゃった」

それは、本当に忘れてしまったんだなって思ってしまう位に。
もし、私が仕事の内容を知らなかったらきっと信じてしまうんだろうなって位に。

「ねぇ、Aちゃん。ワッフル食べる？」
「...え？」
「コンビニ寄ったら、チョコかかってるの売ってたから買って来たの」

傍らに置いてたリュックから、ガサガサとだしたコンビニ袋をそのまま渡された。
中にはいつものワッフルにチョコがかかってる物が、6つ。ちゃんとみんなの分、買ってるんだ...。

「食べない？」
「...じゃあ、うん、貰おっかな」
「うん、食べよ！」

私達は、並んでワッフルを食べた。
飲み物を用意してなかった雅紀くんは、潤くんが私に淹れてくれたコーヒーを飲んで。
「朝のコーヒー、美味しかった？」って訊かれたから「ぬるくなってた」って答えた。

雅紀くんは「そっかー！そうだよね、ごめんね？」って、本当に申し訳なさそうに笑って私の頭を抱き寄せる。
私は雅紀くんに頭を抱き締められたまま、ワッフルをモソモソ食べる。
口の中の水分が、じわじわと奪われる。

溜息は吐き出さないようにする。

「雅紀くん...」
「んー？」
「.....」
「どうしたの？」
「ううん！お仕事...頑張ってね」

雅紀くんの喉が、クッと鳴った...気がした。
唾を飲み込んだ音なのかもしれないし、息を止めた音なのかもしれない。
でも全部、私の気のせいかもしれない。

「ん、頑張るね」

やっぱり彼の声は、いつもと変わらない。

「...仕事、だもんね」

それは、彼の独り言だったのか

それとも、私に言ったのか

分からなかった。