PARACAGE 8th【ars】 (ページ30)

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275.1mm。←12.12 ページ30

眼鏡の奥のその目も、初めて見た。

悲しそうにも、怒ってるようにも、笑ってるようにも見える。
だけど、どれでも無い感じもする。
分からないのは眼鏡のせい？
それとも...

ただ彼の目は、一度も私から逸らされる事は無い。

「...え...っと...」
「ん？」
「潤くん...こんな時にそんな.....」
「冗談言うなって？」
「......」
「俺がこんな冗談を言うような男に見えてたの？」

潤くんがハッと短く息を吐き出す。

「もしAにとって、そんな風に見えてたのなら俺は自分の見せ方を間違えてたな」
「そんな事...」
「冗談だと思う？」
「......冗談って言うか、何と言うか...」
「突然過ぎて信じらんないんだろうけど、1mmも嘘じゃないんだわ」

コメカミを指先で押さえて、潤くんはちょっと怠そうな表情を見せて俯いた。
「ってゆーか、俺も信じらんないわ」
「...え？」
「絶対に言うつもり無かったのに、完全に想定外」

想定外なのは私の方だと思うんだけど...
だけど現実味が無さ過ぎて、心臓も妙に落ち着いている。

「俺ね、好きな人が幸せならそれで良いってタイプなの」
「......」
「幸せに出来る相手が俺じゃ無かったんだなぁってのは悔しいけど、それは人の気持ちだから仕方の無い事だって思うし」
「......」
「だけど...だけどさ、A見てると『コイツ幸せなのかな？』って思っちゃったワケ。しかも一度じゃなくって何度も」

潤くんがゆっくり顔を上げた。

「そんなのが続くとさ、俺なら幸せにしてやれるのにって思うじゃん」

彼は、まるで自嘲するように悲しく微笑む。

「俺、仕事は忙しいけど家には絶対帰るから一緒に寝てやれるし」
「......」
「休みが合えば、いくらでも遊んでやれるし」
「......」
「Aのコト、泣かさないし」

今度は彼の指が、優しく私の目の下に触れた。

「だって俺、女が泣くの好きじゃないから。面倒じゃん」

「ホント面倒だわ」と言って、軽く笑う。

その時、黄色のドアの向こう側からガタンと物音がした。

「ヤベ...」
「え？」
「カズ起きたっぽい」
「え...あの...」
「ちょっとこっち」

潤くんが私の二の腕を掴んで立ちあがらせたと思ったら、素早く紫のドアの中に引っ張り込んで「シー」と唇の前で人差し指を立てる。
と、同時に隣のドアが開いた音の後に「廊下でヒソヒソうるせぇ...って、あれ？」って声と、またパタンとドアが閉まる音。

目の前の潤くんが「セーフ」って笑う。