PARACAGE 8th【ars】 (ページ23)

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268.願掛け。ページ23

「やっぱり、指名だよ...」

私がボソッと言うと、ニノくんは「ん？」って身体を近付けて来た。

「だってさ、彼女は『会いたい』って言ったんでしょ？」
「そうだけど...でも、仕事としてだよ！」
「何で分かるの？本当にそうなの？仕事として会いたいって言ったの？」
「あ...いや...多分...そうなのかな、ってオレは思うんだけど...」
「それ、結局ニノくんの勘ってゆーか推測だよね？」

溜息を吐きながら笑うと、ニノくんは「オレの勘は当たる方だから...」と自信無さげにモゴモゴ言う。

「...ごめんね、ニノくん責めるのはおかしいのに」
「責められてるとは思ってないから、気にせず何でも言えよ」
「.....」
「それにオレが隠し切れなかったんだから、責められたっていーの。だからもっと暴言吐いても良いよ」
「暴言ってまさかニノくん、ドM？」

何となく重くなった空気を変えたくて冗談を言うと

「どちらかと言えばサディストだけど、そう見えない？」

彼も冗談で返してくれた。
フフ、と肩をぶつけて小さく笑い合う。

彼は「不平不満、不安や泣き言も全部、期間限定で受け止めてやるよ」と言った。
期間限定ってゆーのはきっと、この一週間なんだろう。
ずっとじゃないのが、彼らしい。

アキラさんは雅紀くんの表紙を見て、何を思ったんだろう。
どう感じたんだろう。
どんな想いで『会いたい』って言葉にしたんだろう。
インタビュアーが雅紀くんになったと聞いた時、喜んだのかな...戸惑ったのかな...

そもそも、彼女は雅紀くんへの想いを断ち切ってた...？
それとも...

考えたって仕方ない事を考えて、モヤモヤと嫌な感情ばかりが込上がって来て、不安と憂鬱で喉の辺りが気持ち悪くなって来た。

「A...？」
「今の私、何言っても単なるヤキモチ女でしか無いよ...」
「良いんじゃない？」
「でも、すっごい嫌な女になるもん...」
「そんなの当然でしょ」
「...え？」
「よく言うじゃん、誰かの恋が実った時に誰かの恋は砕けてるって」

ニノくんはそう言うと、二本目の煙草に火をつけた。

「皆が皆、幸せにはなれねぇんだよ。でも出来れば己が一番幸せになりたい」
「.....」
「その邪魔になりそうな人間に対しては、誰だって嫌な人間になっちゃうもんよ」

ふーっと煙を吐いたニノくんは、緩く口の端を上げる。

「だってオレ、毎日呪ってたよ？カノジョの旦那の事」
「え！」
「ちょっと言えないよーな事、夜な夜な願掛けしてたもん」

彼はハッと笑った。