PARACAGE 7th【ars】 (ページ25)

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235.レンズ越し。ページ25

「似合うね」

鏡を覗いてた私の顔の隣に、雅紀くんの顔が並んだ。
耳が触れ合う。

「健ちゃん、これちょーだい」
「お買い上げ、ありがとうございます」
「あれー？ちょーだいって言ったのになぁ」
「こっちも商売なんだよ、バーカ」

ですよねー！って笑った雅紀くんが健さんの元へ行って、お財布を出したのが見えた。

「ちょ...雅紀くん待って！自分で買うから！」
「俺が勝手に連れて来て、勝手にAちゃんにはどれが似合うかなー？これ似合うなーって思ったんだから、買うのも俺が勝手に買うよ」

何だ、その主張は...。
ちょっと唇尖ってるし。

「でも、私も気に入ったし！」
「じゃあ...プレゼントって言ったら納得してくれる？」
「...え？」
「俺からAちゃんへプレゼント。初デート記念」
「デ...ト...」

デート...デート...！！
これ、デートって言っても良いんだ！！
何かデートだなんて烏滸がましくて考える事すらしないようにしてて、『二人でお出掛け』ってゆー肩書きを付けてたのに！！
ぃやったー！！

なんて私が考えてる内に雅紀くんはお会計を終わらせてしまってて、「ありがとう」って言った私の声は嬉しさでちょっと気持ち悪いくらい震えてた。

お店を出て、バイクの前で二人揃ってサングラスを掛ける。

「これなら簡単には顔バレしないかな」

私が言うと、雅紀くんは「安心だね」と微笑んだ。

「雅紀くんに迷惑が掛かったらいけないもんね」
「え？」
「え...だって、変な噂が立ったらお仕事に影響するかもしれないし...」
「変な噂なんて、俺の場合とっくにあるよ？」

彼がちょっと困ったような顔で笑いながら言う。
...確かに、ヒロシ君も言ってたくらいだから世間には知られてなくっても業界内では色々と噂も出てるか...。

「俺が気になったのは、Aちゃんの顔が晒されるのは困るなーってコト」
「え...私？」
「例えば週刊誌とかなら素人さんの顔には目線とか入れてくれんの」
「あぁ...うん、そうだね」
「でも最近は誰でもスマホで写真撮れちゃうし、その写真も簡単にネットで拡散できちゃうし」

バイクに跨りながら、雅紀くんが話す。

「俺は良いの。でもAちゃんがそんなコトされんの、絶対に嫌だと思って」
「......」
「迷惑を掛けるとしたら、俺の方だもん」
「そんなコト無いよ...」

「そんなコト無い！」って首を振ると、雅紀くんは「ありがとね」って私の頬を撫でた。

黒いレンズ越しの彼が、優しく微笑む。