PARACAGE 7th【ars】 (ページ22)

今日:4 hit、昨日:1 hit、合計:1,010,519 hit

232.待ち合わせ。ページ22

少し肌寒いけど、窓を開けたままでメイクを始める。
縁側の窓も開いてると下の声も聴こえて来るんだけど、やっぱり寒いのか窓は閉めてるようで静か。

その内、隣の部屋に雅紀くんが戻って来た気配。
直後、傍らに置いてたスマホが鳴った。
見るとLINEで差出人は雅紀くん。

『待ち合わせ、9時で大丈夫？』

同じ家に居るのに待ち合わせって言葉がおかしくて、クスっと笑う。

『大丈夫だよ』

返信するとすぐに既読。多分、ずっとトークを開きっ放しなんだろう。

『じゃあ、9時にリビングで待ってるね！』

一つ屋根の下で待ち合わせ。
何だかくすぐったくて、嬉しくて、ヘラヘラする頬をパンと叩いてメイクの続き。
浮かれ気分に流されて、濃くならないように気を付けないと。

最近買ったコーデュロイのロングスカートを履いて9時にリビングに下りると、そこに待ってた雅紀くんが羽織ってたブルゾンもコーデュロイ素材で、それだけでまた胸の中で小さな私は小躍りしてる。

「お待たせしました」

声を掛けると、テレビを観てた雅紀くんがこっちを見て「ううん、全然待ってないよ」って笑う。

「じゃ、俺行って来るね」

雅紀くんが誰かに話しかけたと思ったら、背凭れの向こう側で智くんがムクっと起き上がった。
智くん、そこに居たのか！いつから？ダイニングにニノくんと潤くんが居た時も？忍者みたい。

「いってらっしゃーい」
「うん。バイバイ、おーちゃん」

二人が軽くハイタッチして、雅紀くんがこっちに来る。

「ちゅーけんちゃんも、いってらっしゃーい」
「あ...アハ、行って来ます...」

智くんに苦笑いすると、彼はあははって楽しそうに笑った。

玄関で靴を履きながら、雅紀くんが「ちゅーけんって何？」って訊いて来た。

「ハチ公...かな」
「忠犬ハチ公のちゅーけん？」
「うん、多分」
「何でAちゃんがハチ公なの？」
「うーん、何でだろうねぇ」

誤魔化してみたけど、彼は「あ、もしかして。分かったかも」と言いながらスニーカーの爪先をトントンと三和土に打ち付ける。
私もスニーカーをトントンしながらその言葉の続きを待ってたんだけど

「でも言わなーい」

雅紀くんはヒヒっと笑って、引き戸をガラガラと開けた。

『忠犬』の由来は恥ずかしいから自分から言わなかったはずなのに、雅紀くんにそう言われてしまうと「何で言わないの！どんな説を導き出したの！気になる！」とか思っちゃうんだから本当に勝手なもんだ。