PARACAGE 7th【ars】 (ページ20)

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230.毛布。ページ20

「Aちゃん」

天井を見上げたまま、雅紀くんが私を呼ぶ。

「俺さぁ、来週家に居ないの」
「...え？」
「帰って来れない」
「......」

なになに...まさか、新しい女が出来た...？
って、新しいも何も私が『雅紀くんの女』って言うの、恥ずかしいというかまだ未確認なんだけど。

さっきまでキューンと甘かった胸が、急にギシギシする。

「海外ロケ入ったんだー」
「...あ、お仕事...？」
「うん、お仕事」
「あ...あぁ、お仕事！」
「ん？何だと思ったの？」

クルンと雅紀くんが首をこっちに向けた。
疲れなのか、眠気なのか、その目がトロンとしててドキっとする。

「心配？」

まるで、自分が何かを心配してるような表情で訊いて来るからすぐに首を振る。
「ううん」って声にもして、ちゃんと伝える。

「大丈夫」

私が言うと彼は微笑んで、背凭れに預けてた身体を元に戻した。

「何日間くらい？」
「一週間だったかなぁ」
「...そっか」

長いな...でも海外だったらそんなモンなのかな...。

そんな事を考えてると、雅紀くんが私の髪を指にクルンと巻き付けて遊び始めた。

「寂しい？」

指に髪を絡めたまま私の顔を覗き込んで、掠れた声で問う。

「さみ...しい...？かな？あ、けど一週間なんてあっとゆー間だよね！」

本当は寂しいくせに、素直に言えない。
素直に寂しいって言ったら、雅紀くんはどんな顔をするんだろう。

ソォっと雅紀くんを見ると、同じタイミングで私は彼の腕に包まれた。

決して強くない力で。
毛布みたいな柔らかさで。

肩に乗った雅紀くんの顎が、何かを喋り出しそうに動いた。

耳を澄ます。
どんな小さな声も、聴き逃したくない。

「どっか、行こうか」
「...え？」
「Aちゃん、いつ休み？」

小さな子供に話すような優しい喋り方。
何故だか、涙が溢れそうになる。

「...明後日、休みだよ？」
「うそ、俺もやっとオフなの。明後日」
「えっ！？」

思わず身体を離して雅紀くんの顔を見てしまった。
彼はニィっと笑って「運命だねぇ」なんて言ってる。

「Aちゃんはどこ行きたい？」
「どこでも良いってのは困るって分かってるんだけど、どこでも良い！」
「アハッ、困るー」

雅紀くんは、また私を抱き締めた。
でも今度はちょっと痛いくらい。ギュウって。

「ねぇ、誰か起きて来てこんなの見られたら、怒られちゃうよ」

私が笑いながら言うと

「一緒に怒られよっか」

笑った彼の頬が、私の頬に触れた。