PARACAGE 7th【ars】 (ページ17)

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227.ロケットサイエンス。ページ17

彼はカウンターに乗ってる食器を私の方へ寄せ出来たスペースに手帳を広げ、ペンを取り出す。
それを顎に当てノックしてペン先を出すと、手帳のフリーページに何か書き始めた。

そして、そのページを私に見せる。

『it's not rocket science』

そこに書かれてたのは、短い英文。

「知ってる？これ」
「え？...それはロケット科学では無い...？え、どういう事？」

何故今、ロケット科学の話？
潤くんって宇宙好きだっけ。好きそうだけど。

「直訳するとAが言った通りなんだけど、これ意味は違うんだよ」
「そうなの？」
「ロケット科学のイメージって、どんな感じ？」
「んー...難しそう」
「それそれ。お前、俺が望んだ通りの答え出してくれるなぁ。俺がAの家庭教師だったら、すげぇ気持ち良く教えられるわ」

何かちょっと馬鹿にされてるって事は分かる。
腹いせで私の前に追いやられてた潤くんの器に入ってるこんにゃくを食べようとしたら、お箸を持ってる右手首を無言で思いっきり掴まれた。動かせない。馬鹿力。

諦めてお箸を置くと、潤くんも私の手首を離して「だから、この意味は...」と話を再開。

「そんなに難しい事じゃない、ってコト」

そう言うとペリっとそのページを千切って、私に渡す。

「それ、俺の座右の銘なんだけどさ。やっぱ、考え過ぎたり悩んだりするじゃん？人間、生きてると」
「...うん」
「だけど、そういう時にそれを思い出すとちょっとラクになんのよ」
「......」
「全部、そんなに難しいコトじゃない。ライトに考えてみたら、自ずと答えも見つかったりする」
「そうなのかな...」

潤くんの字で書かれた英文を眺める。

「Aが今悩んでんのは、雅紀との関係だろ？」
「うん...」
「だったら、そんなの簡単な解決方法があるじゃん」
「え？」

私が散々悩んでる事に簡単な解決方法？そんなのある！？

「雅紀に訊けば良いだけの話」
「い...やー...、それはさすがに私も何度も考えたってー...」
「考えただけで実行してないから、未だにウジウジ煮え切らないまんまなんじゃないの？」
「それはそうだけどー...」
「雅紀からの好意は感じてんでしょ？だったら何が不安なんだよ」

好意...は、確かに感じてる。
だけど、特別なのか？って言われたらそこに自信は無い。

「...ウザくない？何か...私達の関係って何なの？とか訊く女って...」

溜息のように吐き出した言葉に、潤くんは不愉快そうな顔を隠さなかった。