PARACAGE 7th【ars】 (ページ16)

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226.手帳。ページ16

キンキンの生ビールを頼んで、熱々のおでんを食べる。

「至福...贅の極み...この世の天国」
「フフッ、大袈裟」
「オジサン！この大根、最高ですよ！口に入れた瞬間にお出汁の味がぶわぁって」

美味しい、最高。
その想いを込めてオジサンにサムズアップすると、同じようにサムズアップ返し。

「次はそのはんぺん下さい！それからそれからー」

カウンターの中のおでん鍋を覗きながら選んでると、潤くんが「俺、コンニャクと巾着」って注文したから「私も巾着！」と注文。

「真似すんなよ」
「巾着良いなぁ食べたいなぁと思っただけですー」
「ムカつく言い方すんなぁ、お前」

潤くんが大きな口を開けて笑う。
潤くんは厳つくないけど、ここのオジサンと同じで笑うと可愛くなる人だ。
それは、テラハウスに来た時からずーっと思ってる。
だから、もっと笑えば良いのにって。

はんぺんと巾着が入った器が私の前に置かれる。
巾着を頬張ると、中からお餅がびよーんと伸びた。

飲み始めて1時間ほど過ぎた頃。

「煮え切らない案件は、さすがに解決した？」
「え？」
「雅紀とは付き合ってるって事で落ち着いたワケ？」
「あー...」

潤くんの質問に、答えられない。
もう私、最近こんなのばっかだ。
そりゃあ、煮え切らないって言われても仕方ない。

「潤くん...」
「なに」
「私、雅紀くんの彼女なの？」
「は？」
「さっき、潤くんは私のことを『友達の彼女』って言ったから」
「言ったけど、お前が違うって言うなら違うでしょ」

だよね...。

「何をそんなに悩む事があんの？」

潤くんに言われて、そうか私悩んでるのかと気付く。

雅紀くんから他の女の子の影は見えなくなった。
それに彼は、とても優しい。

だけどあの海の夜の後も、その前からの関係と何も変わらないと言えば、何も変わらない。
だって雅紀くんは、その前からずっと優しかったんだ。

「何だか、よく分からなくて...」
「何が分かんないの」
「雅紀くんと私のこの関係ってさ、これって何なんだろう」
「恋人ではないと、A的には思ってるって事ね」
「うん...」
「雅紀は何か言ってんの？」
「特には何も...あんまりゆっくり話も出来てないってのもあるんだけどね」

潤くんは「アイツ忙しそうだからなー」と言い、ビールを一口。

そして彼はジョッキを置き、隣の椅子に置いてた鞄の中から手帳を出した。

使い込んだ茶色い革の表紙が、出来る男って感じで格好良い。