PARACAGE 6th【ars】 (ページ10)

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185.お父さん。ページ10

雅紀くんがバイクに跨って、ヘルメットを被る。
投げ出すようにされてる、長い両脚。

「どこの海が近いかな...」

独り言を零しながら、何かを考えるように上を見て

「星」

彼は、呟いた。

「海なら見えるかな、星」

言われて、私も上を向く。
星は、見えない。

「海なら見えるかもね」

私が言うと、雅紀くんは少し嬉しそうに小さく笑った。

「お前ら、何してんの？」

突然かけられたその声に視線を向けると、仕事帰りの潤くん。

「潤ちゃん、おかえり！」
「おかえりなさーい」

潤くんは私たちの挨拶に「ただいま」って律儀に返す。

「ちょっと海にでも行ってこようかと思ってねー」
「はぁ？こんな時間から？」
「うん、こんな時間から」

雅紀くんと話してた潤くんが、チラッと私を見た。

「Aも行くの？」
「何か、成り行きで...」
「成り行き？よく分かんないけど、明日休みなわけ？」
「...仕事...」

完全に潤くんが呆れた顔になった。
あぁ...何だか夜遊びしようとしてるのをお父さんに見付かった気分...

「雅紀、バイクで行く気？」
「うん」
「気を付けろよ？」
「心配してくれてありがと、潤ちゃん」
「別にお前1人なら事故ろうが何しようが勝手だけど」
「えーっ！？」
「A乗せるんだろ？」

ハァ...って潤くんがため息。

「Aも一応女子なんだし、怪我させたら大問題だからな？」
「潤くん、私、一応じゃなくてガッツリ女子」

私が言い返してると雅紀くんが、穏やかに微笑んだ。

「俺は、Aちゃんに傷なんて付けないよ」

その言葉が、苦しい。
だって、もう傷なんて数え切れないくらいに付いてる。
雅紀くんの知らない所で、雅紀くんの知らない傷を私は増やしてる。

でもそれは、彼に関係無い事。
私が勝手に傷付いてるだけ。
私が傷付いてるなんて、彼は知らない。

「キズモノにはしないから！」
「言い方、おかしい」
「怪我させないんだから、おかしくないでしょ？」
「キズモノだと意味が違って来るだろ」

2人が話してるのを、笑いながら眺める。
少しだけ呆れてるような笑顔が出来てたら良いなぁと、思う。
ヤレヤレ困ったなぁ、って顔が出来てたら良いなぁと、思う。

「とりあえず俺は腹減ったから、帰るわ」

潤くんが軽く手を挙げて私達の横をすり抜け、玄関の中に入って行った。

「行こ、Aちゃん」

エンジンをかけず地面を脚で蹴りながら、雅紀くんが門扉の外に出た。