PARACAGE 6th【ars】 (ページ35)

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210.衝動。ページ35

ニノくんが煙草を1本吸い終わって灰皿に押し付けた時。

「ねぇまだ智くん、風呂入ってんの？」

翔さんがリビングに顔を出して、私達に訊いた。

「ううん、今入ってんのは潤くん」
「先越されたか！あ、ニノおかえり」
「うん、ただいま」

変なタイミングでも挨拶を忘れない翔さん。

「じゃあ、ちょっと待つかー」

ソファに翔さんが座ったら、ニノくんはふらーっと部屋から出て行った。
もしかすると、私が翔さんと話せるように気を使ってくれたのかもしれない。

「あの、翔さん」
「ん？」
「...焼き鳥、食べますか？」
「良いんですか？」
「もちろんです」

アハッ、と翔さんが笑ったからお皿をローテーブルに置いて私もソファに座る。
翔さんはキッチリ手を合わせてお食事の言葉を呟き、串を手にした。

「...翔さん」
「ん？」
「.....」
「雅紀の事ですか？」
「...あー.....はい...」

ハツを一口食べた翔さんは、その串をお皿に置く。
モグモグと口を動かしゴクンと飲み込むと、私に向き合う。

「昨日の夜から今朝にかけて、何があったのか聞きました」
「...はい」
「『ひとつ屋根の下お持ち帰り事件』ですね」
「へっ！？」
「アハハッ！ごめんなさい、思いついたらどうしても言いたくなっちゃって」

翔さんはクスクス笑った。
つられて、私も笑う。

「雅紀くん...何て言ってましたか…？」
「翔ちゃんが心配してるよーな事はしてないよ、って」
「心配してる事...」
「まぁ、簡単に言えば『ヤッてないよ』って事ですね」

若干下品な言葉遣いなのに、それを感じさせないのがすごい。

「だから、僕から訊きました。どういうつもりなんだ？って」

雅紀くんは、何て答えたんだろう...
何かもう、胃がキリキリして来た。

「アソびたくて部屋に誘ったんじゃないって、言ってました」
「.....」
「傍に居て欲しくて、だから一緒に寝たって」
「.....傍に...」

キリキリしてた胃が、ギュッとなる。

「でもこの先どうしたいのか、それは僕が訊く事じゃないと思ったから訊いてません」
「...あ、はい」
「ただ、無責任な事だけはするなと言ったら...」

その答えを聞きたいような聞きたくないような、複雑な気持ちで唇を噛んだら、翔さんが口角を上げた。

「『Aちゃんと居たら、俺は変われる気がする』って、アイツ言いましたよ」

泣き叫びそうだ。
焼き鳥を口に咥えて、それを堪えた。

翔さんが、笑ってる。