PARACAGE 6th【ars】 (ページ30)

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205.余裕が無い。ページ30

「ビール買ってくれば良かったなー」

数本の焼き鳥とサイダーを飲み干した雅紀くんが、ゴロンと縁側に仰向けに寝そべった。

「あ...このまま寝れる...」

そして、そのまま目を閉じる。
長い睫毛。

「...雅紀くん」
「んー？」

どうしよう。翔さんに話して貰う事、お願いしても良いのかな...
やっぱり、自分で言えば良い事のような気もして来た...。

「......やっぱ、良いや！」

どっちにしても、そんな今すぐじゃなくっても良いか。
そう思ってたら、雅紀くんの目がパチっと開いた。

「言い掛けた事は言って？」
「...え」
「俺に言おうとしてた事があるんでしょ？」
「......」
「言いたい事を飲み込まれるの、あんま好きじゃない」

雅紀くんが人に対して『好きじゃない』なんてネガティブな言葉を出すのは、珍しいと思った。
それが何故か、妙に嬉しく感じたのは何でだろう。

本当の姿を見せてくれてるような気がするからなのか。

「翔さんは今朝の事まだ知らないらしくって...」
「あれ？おーちゃんは知ってたの？」
「うん、ニノくんから聞いたらしくって」
「あー！だから俺、狼なんて言われたんだ！」

アハハ！って笑いながら、雅紀くんは身体を起こした。

「狼にはなってないのにねぇ」
「...うん」

チラっと彼を見ると「えっ？なってないよね？」って、何でか不安そう。

「え？え？なった！？俺の手、油断ならないからもしかして寝てる間に粗相した！？」

自分を信じられない雅紀くんの慌てっぷりが面白くて、からかいたくてちょっとだけ考える振りをしたんだけど

「いや！してるはずが無い！Aちゃんとそんな事になったら俺、嬉しくて忘れられる訳ないもん」

なんて、地味に爆弾落として来るから余裕なんてすぐに無くなる。

「それで、翔ちゃんだけがまだ知らないってコト？」
「あ...うん、そうなの」

本題をすっかり忘れてた。色ボケ脳をどうにかしなくちゃいけない。

「そっかー、じゃあ俺から話しとくね」
「え？」
「ん？話さない方が良い？」
「あっ！ううん！話さなきゃって思ってた」
「じゃ、話しとく」

本当は少しだけ、智くんが言ってたように話すのを嫌がられたらどうしようってのも思ってた。
だけど私がお願いする必要すらなかったのが、嬉しい。

本当は抱き着きたい位に嬉しいんだけど、いつ誰が帰って来るか分からない家でそれは危険行為。

代わりに、近寄って来たニゴを抱き締めたらちょっと迷惑そうにニャアと鳴いた。