PARACAGE 6th【ars】 (ページ22)

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197.桃色吐息。ページ22

「あ。俺、仕事...！」

雅紀くんが「ヤッバ！」って私の横をすり抜けて廊下に出た。
そしてクルっとこっちを振り返る。

「Aちゃん」
「うん？」
「行って来ます」
「...うん、いってらっしゃい！」

ニィっと笑った雅紀くんが一階へ降りて、玄関から出て行く音がした。
それを聴いてるだけで、胸がギュギュって縮む。

「...あ、私も準備しなきゃ...！」

そのまま洗面所に下りて顔を洗い、リビングを覗くとニノくんがソファで寝てる。
ダイニングに潤くんの姿は無いから、キッチンで朝ご飯を作ってるんだろう。

「おい、A」

メイクする為に部屋へ戻ろうとしたら、呼び止められた。
寝てると思ってたニノくんが起き上がって「ちょっと来い」って手招きしてる。

「...何でしょう」
「今朝の騒ぎの原因は何だ」
「......」
「って、知ってるけど。潤くんに聞いたけど」
「...知ってるなら何で訊くの...」
「お前の気まずい顔が見たくて」
「ホンット、良い性格してるね...」
「ありがと」

ククって笑ったニノくんが、立ってる私にまだ更に手招きするから腰をかがめたら

「ホントに何もしてないの？」

なんて、耳打ちされた。

「...してないよ」
「マジで？」
「マジです」
「マジでアイツが何もしなかったの？」

潤くんに聞かれないように、ヒソヒソ話す。
キッチンからは、卵を焼いてる音と香り。

「ま、ギュっとされる位はあったんだろうけど」
「......」
「はい、図星」

何か言わなきゃとグルグル考えてると、キッチンから潤くんが出て来てダイニングに座りご飯を食べ始めた。

「さてと...。オレは寝る」
「え？仕事は？」
「中途半端に起こされて眠気が治まんないから、フレックスにするわ」
「そっか...何かごめん」
「ホントよ、迷惑な話ー」

大袈裟な溜息を吐いたニノくんが、アハーって笑ってソファに寝転んだ。
私はそのままリビングを出て部屋に戻り、出勤の準備。

鏡に向かってメイクをしてると、昨日の事を思い出していちいち手が止まってしまう。
ファンデーションを塗って、止まる。
眉毛を描いて、止まる。
アイシャドウを塗って、アイラインを引いて、マスカラ塗って、チークを入れて、その度に手が止まって。
なんだか、よく分からない溜息が零れる。

色があるなら桃色で、温度があるならぬるま湯のような。
そんな溜息。

いつもより頬が赤く感じるのは、チークを入れ過ぎたのかそれとも私の体温のせいなのか。