PARACAGE 6th【ars】 (ページ5)

今日:4 hit、昨日:10 hit、合計:1,539,715 hit

180.香り。ページ5

鞄から折り畳み傘を出して、潤くんに渡す。

「傘、もしかしたら持ってた？」
「ううん。晴れてるし」
「良かった！夕方から雨降るらしいから」
「え、そうなの？天気予報観てなかったわ」

傘を受け取った潤くんが「ありがと」って微笑んだ。
わー...笑うとまた破壊力増し増しだな...。

「では、失礼しまーす」

ペコペコしながら手を振ると、潤くんも手を振ってる。
手...ってゆーか、折り畳み傘を振ってる。

・

「あー...暑かったー...」

家に帰って来て、玄関で思わず声が漏れた。
空は少しずつ雲が広がって来ていて、それと共に湿気も凄くなってる。
湿気辛い。

靴を脱いで、何か飲みたくて這うようにダイニングへ行くと

「あれ？Aちゃん？」

キッチンから出て来た雅紀くんと、鉢合わせした。

「あ...雅紀くん、仕事終わり？」
「うん。おしまーい」
「お疲れ様です」
「お疲れ様」

コテンと首を傾げる雅紀くんに、私の胸は遠慮なく高鳴る。

「何か雨降りそうだよね」
「そうだね、降るみたい」
「じゃー、傘持ってかなきゃなぁ…」
「これから出掛けるの？」
「うん、友達にご飯誘われたの」
「そっか」

言われてみれば、雅紀くんは仕事終わりにしてはキッチリした服を着てる。
仕事だとラフなのに。

「じゃ、行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」

手を軽く挙げた雅紀くんが、同じように手を挙げた私に軽くハイタッチして行く。

「あ、そうだ」

ハイタッチに女子高生並にキュンとしてると、雅紀くんが振り返った。
そして近付いて来て、腰を折り私の顔の前に首を差し出した。

目の前に雅紀くんの横顔。

「どう？」
「...え...何...」
「あれ？分かんないかな、匂い」

そう言われてクンッと鼻から息を吸うと、知ってる香り。

「...これ」
「Aちゃんと同じ香水」

ずっと前、雅紀くんからいい匂いって言われた香り。
あの日から、毎日私もつけてる香り。

雅紀くんが折ってた腰を伸ばして、こっちを見た。

「やっぱり良い匂いだよね」
「うん...」

どうしよう...同じ香りを身につけるって...何か...

「すっごく女の子ウケ良いの」

ほんの少し自惚れてしまいそうだったのに、その一言で冷静になった。

バイバイって楽しそうにキッチンを出て行く雅紀くんに、私もバイバイって笑う。
むりやり、笑う。

雅紀くんが出掛けてすぐ、雨が降り出して

その夜、雅紀くんは帰ってこなかった。

雨音がやけに大きく聴こえた。