PARACAGE 5th【ars】 (ページ32)

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172.半月型。←8.23 ページ32

時間にしたら、きっと数秒のこと。

でも、ありがちだけどそれが私には何時間にも感じた。

少しの表情も無かった雅紀くんの口元が、ふっと緩む。
私と目を合わせたまま、彼は笑った。

「ただいま」

雅紀くんが普段とそう変わらない調子で言ったと同時に、肩が軽くなる。
ニノくんが顔を上げたから。

「...相葉さん...」

譫言のような、小さな声。

「ごめんね！何か俺、お邪魔しちゃった」
「いや...違う、誤解してる」

鼻を啜って咳払いをしたニノくんが私から離れて立ち上がり、そのまま雅紀くんの元へと歩いて行く。
私からはニノくんの後ろ姿しか見えないけど、雅紀くんは彼の顔を見て驚いたように目を開いた。

「ニノちゃん、...どうしたの？」
「...詳しい事はまた話すけど...オレがこんなんだからAに慰めて貰ってたの」
「ふーん...そっか」
「だから、別にやましい事は無いし。たまたまAが居たから慰めて貰ったけど居たのが大野さんだったら大野さんに慰めて貰ったし」

ニノくんが言うと「ホントに？」って、雅紀くんが首を傾げた。

「慰めて貰うなら女の子の方が良くない？」
「Aをオンナノコって位置で見てないからよく分かんないけど」
「嘘だぁ、それは無いでしょ」

ケラっと笑った雅紀くんから、また笑顔がスルっと消える。

「そんなに必死で否定しなくても良いのに。悪い事してる訳じゃ無いんだし」
「必死って...オレは別に」
「ダイジョブだよ、誰にも言わないから」

唇の前に人差し指を立てて「内緒の方が良いでしょ？」って、口角を上げる。
そのまま私を見て「ね？」と言った雅紀くんの目が、半月型になった。

「俺、お風呂入ってそのまま部屋戻るから二人はごゆっくりね」

クルっと背中を向けた雅紀くんが、「あ」と振り返る。

「ニノちゃん、やっぱりこのスーツ良いね！俺にも作ってよ」

あ、本当だ。
ニノくんの言う通り、おねだりした。
雅紀くんにも似合いそう。ニノくん、作ってあげてね。

...なんて。ホントどうでも良い事を考えてしまったのはきっと、自分が思ってるよりも感情がコントロールできないからだ。
現実逃避しようとしてる。
ダイニングから出て行く雅紀くんを呆然と見送る。

「...ごめん、A」

後頭部をガシガシ掻きながらニノくんがこっちに戻って来た。

「一番見られたらマズイ奴じゃん...」
「......」
「マジでごめん」

頭を下げるニノくんに「謝らないで」って笑って見せた。