PARACAGE 5th【ars】 (ページ21)

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161.セオリー。ページ21

叶わない恋ならば、せめて一番近くに居れる存在で居たい。
せめて、一番の理解者で居てあげたい。せめて、一番応援してあげたい。

それは片想いのセオリーだ。

恋愛小説やドラマでもう何度だって見たこの状況を、まさか自分が演じる事になるなんて思っても無かった。
そんなの悲し過ぎるじゃない！どうして自分が恋人になるんだって思えないの！って、第三者で居た時は思ってたのに。
自分がその立場になると、こんなにも「せめて、せめて...」と思うなんて。

私だってその恋愛の主人公で居たいのに、現実は甘くない。
だけど端役でも良いから、近くに居たいと思う。

「やだな...」

雅紀くんが零した。
吐息のように、小さな小さな声で。

その声があまりにも悲しそうだったから、右手を伸ばして雅紀くんの頭を撫でるようにソっと触れる。

「ありがと」

彼の頭が動いた気配に、私も顔を少しだけ上に向けると

ほんの数センチの距離で、雅紀くんと目が合った。

瞬きの音が聴こえる程、近くで
彼が、私を見てる。

相変わらず繋がれたままの左手。

息、出来ない。
心臓、痛い。

「...Aちゃん」
「......はい...」
「ここ、ニキビできそう」
「...へっ！？」
「ここ」

雅紀くんが、ピトっと私のほっぺたに指先を当てた。

「赤くなってる」
「うそ！」
「ホント」
「えぇぇ...」

ニキビ...
そうか、ニキビか...

......チューでもされるのかと一瞬でも思った自分を殴ってやりたい。
目を覚ませ！と怒鳴ってやりたい。
恥ずかしい、穴があったら入りたい。穴を掘りたい。

とか思ってたら、雅紀くんの体が覆い被さって来た。

繋いでた手が離されて、あぁ...と思ってたらその手は私の背中に回ってた。

「うそ」
「...え...？」
「ニキビ、無い」
「......え...」
「ちょっとだけ、ギュってさせて...」
「......」

雅紀くんの匂いに包まれる。
頬に、彼の髪が当たる。

どっちが倒したのか分からないけど空になった缶が転がって、カラーンと音が響いた。

「雅紀くん...？」
「安心して、えっちしようなんて言わないから」

フフ、って笑った雅紀くんがギュウって私の体を抱き締める。

私はその身体を抱き締め返す事が出来なくて

だって、抱き締めたらきっと、私は想いを吐き出してしまうから

吐き出してしまったら、この立場は簡単に崩れてしまうから

叶わない恋ならば、せめて一番近くに居たい。
せめて、せめて...

それは、片想いの悲し過ぎるセオリー。