みんな大好き北さんの妹【稲荷崎】

理由　2 ページ21

　
ー信介サイドー




記憶を思い起こす。


俺はAみたいな圧倒的記憶力は持ってへんし、小さい頃の事は全くと言っていいほど覚えてへん。


けど、これだけは忘れられん。
　

　
　
Aが6歳の頃。

　
　
両親が東京へ旅立ち、俺とAはばあちゃんの家に残った。
　
　

『しんにい、みんな、Aの友達みんな、授業おかあちゃん見に来るゆーてん。なんでAはおかあさんこーへんの？』



悲しそうな顔でそう言うA。


俺はなんて言ったらいいのかがわからへんかった。



「ばあちゃんでもええやろ？逆にみんなおかあちゃんならAだけばあちゃんで特別や。な？」


『そっかあ…特別かあ…！』


そん時はこれだけで収めた気がする。


けどまだ6歳児。


両親に会えない悲しみは消えるはずなかった。


『なぁしんにい…みんな運動会おとうちゃんといっしょに走るゆーてん。Aもおとうちゃんとはしりたい…」


北「……っ…」


両親がいないわけやない。

けど、子供にとっては両親と一緒にいることが大切やった。一番近くで、一番褒めてもらって、一番愛してもらって、Aはそれをしてもらいたかったんや。



俺は3年生まで両親と一緒におったし、別に寂しくなかったけど、Aは違った。


　
『なあ、しんにい…？』


北「…っおとうちゃんとは走れへんくても、ばあちゃんがおいしいお弁当作ってくれるで。な？大丈夫や、」


『そ…っかぁ…』


ホンマに、辛かった。


多分、Aは俺の辛さの倍以上の寂しさを抱えてた。

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