14話 ページ15
「ただいま」
家に着くと、私は扉を開けながらそう言う。
そこには誰の姿もない。
準備をし、静かなリビングで黙々とご飯を食べる。
今日はテレビをつける気力もなかったため、そこには咀嚼音だけが響いていた。
父親は週ごとに働く時間帯が違い、今週の夜は家で一人だ。
そして兄は遠い所の大学へ通っているため一緒に住んでおらず、年に数回くらいしか会わない。
つまり一人の時間が長いのである。
ご飯を食べ終えると食器を片付け、私は再び椅子に座った。
その間、私は無表情のまま。
独り言を話す趣味もないので一連の動きはほぼ無音状態だ。
そんな色の無い生活をここ一年ずっとしていた。
母親がいなくなった、あの頃から。
ふとしたときに思い出す母親の存在。
呼びかけたら心臓が動いてくれたこと、そして亡くなったときの無機質な音。
「お母さん…」
私から鮮やかな色が抜けたあの日。
それを思い出す度に私は胸が苦しくなった。
__
あれは亡くなる一週間前のこと。
いつものように病院へ行き、沢山話しかけていた。
「お兄ちゃんと遊んできなさい」
話すのが辛かった母。
そんな母に私はこの言葉を言わせてしまっていた。
実はこれが母親の最後の言葉だった。
そしてこの言葉の意味を知ったのは危篤状態のとき。
謝ろうにも母親に意識はなく、もう遅かった。
昔から迷惑ばかりかけたのに、亡くなる直前まで気を使わせてしまったのだ。
__
そんな記憶と後悔が一人になると押し寄せてくる。
どんなに月日が経っても、たまにあるこの状態。
それに追い打ちをかけるようにポアロが頭をよぎった。
「お母さんが好きそうな喫茶店に行ったからかな…?」
生きていればあそこに一緒に行けたのかも
負のスパイラルとなった今の状態でそれを考えることは、涙を誘うには十分すぎるものだった。
症状 : フラッシュバック
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作者名:√ -るうと- | 作成日時:2019年3月31日 21時