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35.kt ページ36

慧ちゃんを押さえつけている腕が痛い。


半分の力も入れていないのに、焼けるように痛い。


この痛みの正体は自分の感情であるのか、はたまた慧ちゃんの痛みが伝染したものなのか。


結論は出ないけれど、片方だけの目に映る慧ちゃんに絶望の色を捉えた。


｢にゃぁ...ぅ｣


“...どうして。”


圭人の腕が限界に達した時、ふっと慧ちゃんが力を抜いた。


突然のことに戸惑いながらも、頭の良いこの子を簡単に信じてはいけないことを思い出す。


先程の更に半分の力を残したまま、圭人も腕の力を抜いた。


｢慧ちゃん...？｣


目にかかる髪をはらい、今度は両方の目で慧ちゃんを見る。


“どうして...どうして...”


“雄也ばかり幸せになるなんて...”


“慧は？ねぇ、慧の涼介は？”


“これ以上惨めな気分にさせないで...っ”


“涼介を返してよ！”


“嫌だ...忘れられたくない...！”


“慧だって幸せになりたい。”


“雄也の馬鹿”


“宏太の大馬鹿”


“圭人の嘘吐き”


“誰か助けて...”


“涼介...慧を助けて...っ”


“涼介...”


“涼介...っ”


...限界だ。


もうこれ以上は無理。


見ていられない。


痛くて、苦しくて。


辛くて、悲しくて。


そっと目を閉じて、無心になることを心がけてみる。


腕の力加減だけを意識して、ただ呼吸をするだけ。


背後で誰かが動く気配がした。


宏太と雄也が互いの手当を始めたようで、助かったとばかりにそちらへと意識を持っていく。


宏太は左の二の腕、雄也は頬に傷を負ったらしい。


そんな会話が聞こえる。


｢にゃ、ぁ...｣


...ごめん、慧ちゃん。


圭人は慧ちゃんの痛みを受け止めてあげられるほど強くなかったみたい。


受け止めるどころか、目を背けてしまった。


本当にごめんなさい...。


心の中で全力で詫び、慧ちゃんの背中から降りた。


さすがに馬乗りのままでは可哀想だから。


代わりに慧ちゃんをソファに座らせて、圭人も隣に座って腰に腕を回した。


別に変な意味は無い。


また急に暴れ出すのを阻止する為。


苦しいのは慧ちゃんだもん。


止めてあげないと。


｢にゃぁ...ぉ｣


恐らく、“何してんだよ”。


｢ごめん...慧ちゃんの為なの。｣


｢にゃ...っ｣


“やめろ”、或いは“離れろ”かな。


慧ちゃんが小さく抵抗を見せた、次の瞬間。


部屋のドアが大きな音を立てて開いた。


部屋の中にいる全員が、ドアの方を凝視したまま固まる。


｢...何やってんの？｣

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