失楽のウンディーネ【イナイレ】 (ページ10)

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「いや……昔はやっていた様だが」

今はやっていないぞ、と言うと、えぇー、どうしてだよー、と不満を垂れ流す、やはり苦笑。

おいおい、と、口をとがらせる彼を見た。

と、同時に、東の空が紫色に染まっていることに気付く、隣の円堂と言う少年はさっきの顔が嘘のようにもうすぐだな、と空を眺め始めた。

さっきの喧騒が嘘の様に空に吸い込まれて行った、そして急に静かになった鉄塔の上。

私は手を腰にやって仁王立ちしている彼の横顔が何となく、何となく絵になるな、と思った。

紫色の空に何となく分かる赤っぽいバンダナのサッカー少年。

うん、絵になる。

急に静かになったことを少し寂しく思ってしまったことをいつの間にか忘れてしまっていた。

そして、久しぶりに話した同じくらいの年齢の日本人に何処と無くこそばゆいものを感じて頬を掻く。

「あ、見えたぞ！」

「……！」

彼が指を指した向こう側。

ぬぬぬ、と出てくるオレンジ色の朝日の頂きが、さっきのハシゴを登ってきた円堂のそれに似ていて思わず、ふ、と笑ってしまう。

けれども、久しぶりに見たと思われる鉄塔からの朝焼けはとても綺麗なものだった。

これが俗に言う何物にも変え難い景色なのだろう。

私がその景色を見た、それだけは紛れも無い事実なのだ、それを心から実感する。

改めて隣にいる少年をみると、彼はオレンジ色のバンダナに長い前髪を垂らしていた。

何となく、今見ている朝日を思わせた。

「円堂」

「？

何だ？」

「すまん、サッカーをしていない理由だったな。

私は、生まれてから10年分の記憶を何処かに置いてきたんだ」

「……え？」

「記憶喪失だよ、2年が経過しているが、何も思い出せそうもない」

オマケにその10年の間に足まで怪我をしているから、あまり過度な運動は出来ないんだ。