失楽のウンディーネ【イナイレ】 (ページ43)

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「……広いな」

呆然と立ち尽くした。

元々決勝の場所は決定していたものの、途中で変更になった、ゼウススタジアムという本来の場所の真上にあるステージだ。

アッシリアの空中庭園か何かでもイメージしたのだろうか、少なくともあまり趣味が良くないそれに乗り込んだ感想がこの一言だった。

神なぞ居るはずないものを。

私は神話とかそういう類には詳しいと自負しているが、生憎私は無宗教だ。

建築美、造形美というのか分からないが、設計者は頑張った。

それは感じた、一言労ってもいいくらいには。

まあそれはともかく、たかだか中学生の試合と言えど、一国の決勝戦はやはり人が多かった、喧騒に思わずヘッドホンで耳を閉じる。

幾分かマシになった場所で自分の席を探す、比較的地味な服装で目立たない様に座り、足を組んだ。

空いている所がまだ手前で良かった、安堵の息を吐く、そのまま試合開始まで待ち続け、隣に座った人が一礼するのを見て違和感を覚えた。

彼女は写真立てを持っていた、そこにはオレンジ色のバンダナを被っている男が映っていた。

古そうな写真だった、きっと故人だ。

ここまで色が褪せていると何年も前のだろうが、それでもやはりオレンジ色のそれが特に目を引いた。

「……失礼、もしや円堂の家内で？」

「え、守のお友達？」

「嗚呼……ええ、友人です。

ミドリと申します」

被っていた黒いキャスケットの縁を上げて一礼する。

「あら可愛い子、なんであの子ったら全く話してくれないのかしら」

彼女はなんだか嬉しそうに頬に手を当てた、私はその表情に笑顔で返す。

「ミドリちゃん、守と同じ雷門なの？」

「いえ、私は他所から。

彼の決勝戦を見に」

そんなことを話していれば試合は案外早く始まるもので、自然に会話は止まり、私は彼らに集中する。

雷門を襲撃した影山だ、また円堂達に悪巧みを考えている筈、敵側の世宇子中はカップに注がれていた水を飲んでいる。

隣の彼女はひたすら自分の息子を心配している様だったが、私は一人別のことを思案していた。