失楽のウンディーネ【イナイレ】 (ページ34)

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彼女が入って来た時には、アメリカ支部には僕とジャックしか居なかった、ハンスは彼女と同じ年にやってきたほぼ同期だったから。

前支部長は殉職した、と組織では表向きには伝えられているけれど、彼は殉職なんざ生易しい物ではないし、彼女の記憶と密接に結びついている。

勿論僕も、銃痕を足に残す前の彼女と話したことがある。

彼女の母の死の真相も、全て知っている。

その時点で、その真実を伏せておくことは自明の理だった。

優秀とは言え、彼女はまだ十五にも満たない少女なのだから。

「分かってはいる」

目の前のジャックはキーボードを打つ手を止めなかった、けれどその長髪に隠れた表情は当時の悲痛さを物語っている。

「……まあ、いいけどな」

と、話がひと段落したところで、電話が鳴った。

顔を見合わせる、鳴ったのは僕らが支部長の連絡で私用で使っている固定電話では無く、大学の認可した大学用固定電話だった。

顔だけ野郎、もといハンスが受話器を掴み、もう一度顔を見合わせる。

ガチャリ、と音がした。

「はい、こちら、」

『ノーステティア大学で合っていますか』

「……ええ、合っていますよ」

事務室関係だろうか、Aourには関係なさそうだ。

しかし何だろう、切羽詰まった声色をしている、こちら側か？

もう一つの固定電話を取った時、

『そちらに、Aourのアメリカ支部があるとお聞きしたのですが』

……前言撤回。

『取り次いで頂けませんか、早急に依頼をお願いしたいの』

「お名前を、上の方に取り次ぎます故そちらの電話番号も」

『ヒトミコ、キラヒトミコよ』