失楽のウンディーネ【イナイレ】 (ページ16)

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それから、学校も行かない暇な私はずうっと、あの鉄塔の元へと通い続けた。

一人で特訓している円堂を塔の上から眺めてみたり、話しかけてみてアドバイスをしたり。

体力を付けて、昔打っていたはずのシュートの確認だったり、と、辞めた筈のサッカーをまた再開したのだ。

あの日胸に飛び込んで来たサッカーボール。

大分使い込まれているのに白黒のまま、綺麗なボールだったのは、きっと保存状態が良かったからだろう。

そんなに大切にして、昔の私はもしかしたらあの少年のようにただのサッカー馬鹿な少女だったのかもしれない。

こんなに使い込まれているのに色の劣化が見られないのはきっと本当にそうなのかも。

今日も一人で早朝からボールを蹴っていると、見慣れた姿がニョキりと現れる。

「あ、久しぶりだな！

緑！」

「嗚呼、……って、緑って私のことか？」

「だって名前教えてくれないんだろ」

「ぐっ、それは私に非があるな……」

ある日彼は、私のことをそう呼び始めた。

目の色が緑色だから、緑。

安直だがとても分かりやすいネーミングである、センスはこの際聞かないことにしたが、それでも私を呼んでくれることが、とても嬉しかった。

しかしそれは、同時に私にとっては小さな罪悪感の賜物でもあった、が、彼はそんなことも気にせず笑ってくれていた。

きっと私の消えてしまった記憶の様に、大事な訳があるのだろうと察してくれた所は素晴らしい人格者だ。

そんな訳で今日も彼にシュートを打ってみる、勿論彼は止められないまま地面に寝そべるのがオチだが。