失楽のウンディーネ【イナイレ】 (ページ13)

今日:31 hit、昨日:9 hit、合計:89,649 hit

・ページ13

本当に記憶無いのか、と聞かれたので、身体は覚えているらしいと言うと彼は成程、と言って納得していた。

恐らく彼も似た様な経験があったのだろう。

「それならさ、俺にシュート打ってみてくれよ！」

「……構わんが」

これでも昔は調べたら出てくる選手ではあったので、成功したら多分痛いぞ、と忠告しておく。

彼は、任せとけと自信ありげに胸を叩いた。

どんな技だったろうか、確かこう、上に蹴りあげてから……。

其処からは早かった。

私は真上にボールを蹴り上げてから何かに取り憑かれた様に真上に飛んだ、雨も降っていないのに辺りに水が舞う。

あれ、私今、何をしている？

───勇敢なる白鯨(ブレイブ・ザ・モビーディック)

「うおーッ！！

スゲェッ！！」

そう叫ぶ彼に私はアクロバティックにボールを蹴り落とす。

自分でも訳が分からず大きな白い鯨が円堂に向かっているのを見て、思わず危ない！、と叫んでしまった。

素早く受身を取る、が蹴った右足、丁度銃創の所がズキズキと痛む。

見上げると、目の前の彼は受け止めきれなかったのか、ボールが反動で私の目の前に帰ってくる。

円堂を見れば、へにゃりと、地面に大の字に寝転がって笑っていた。

「なあ、大丈夫か……？」

「お前凄ぇな！！」

「笑っている場合ではないと思うが……」

嗚呼、そうだ、此奴は自分でサッカー馬鹿と言ってしまうようなサッカー大好き人間の見本となるような少年だった。

「……そんなに嬉しかったのか？」

「嗚呼！！こんなシュート初めてだッ！！」

「……そうか」

それは、よかった。

もうその言葉しか出なかった、私にとってこのシュートは円堂という目の前の少年が満足すれば問題ないものであったから。

とはいえ、彼の賞賛を受けて、私は少し照れ臭い、まだズキズキと痛む右足を引きずりながら倒れ込んだ円堂に手を伸ばす。

それに気付いた彼はサンキュ、と言って私の手を掴む。

よっこらしょ、と左足で重心をかけて彼を勢いよく引っ張った。