失楽のウンディーネ【イナイレ】 (ページ2)

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そもそもの話、何故彼がここまで過保護にドがつく位の心配をしてくれているかと言うと、だ。

それを話すには私の少し特殊な、話すのも面倒でちょっぴり億劫な経歴を説明しなくてはならない。

現在12歳、姓は有栖川と書いてアリスガワと読む、名はAというこの私だが、現在産まれてから10年の記憶が無いのだ。

勿論目覚めた時は深刻だった、生きた筈の10年分の記憶が無ければ右足首に銃創が一発分。

最初は不思議に思うだけではあったが、自覚さえしてしまえばそれはもう滑稽なことになった。

一体どんな人生を送ったんだ、と起き上がったベッドを苦悩の余り殴ってしまった。

代わりに何故か知識だけはあった、当時小学四年生の私にしては可笑しいくらいに頭がいい。

高校内容は普通に網羅していた。これには流石に担当医もびっくりしていた、オマケに父と名乗る者もびっくりしていた。

勿論私もびっくりしていた。

何故私が記憶を失って居るかも一応判明していて、端的に言えば精神的なショックだ。

理由と言えば、目の前に母親の死体があったことらしい、いや本当に何があった。

更に言うと、私はその母親からネグレクトを受けていたという。

……記憶こそ無いが、何だか自分に同情せざるを得ない。

そんな私が何故大学の一室にいるのかと言うと、これは至極簡単、在学中だからだ。

周りの人間からは“最も博士号に近い人間”だとか“最速の少女”とか言ってちやほやされている。

実際飛び級して、2年でそこそこ名のある大学を卒業しようとしているのだから事実だ。

他人からの好意はありがたく貰っている、そんな私の評判は悪くないらしい。

「あのな、護らなかったんじゃあ無い、護れなかったんだ。

私は、そこの分別は付ける心算だよ」

「でも……」

あの町に帰ることが苦しいとは思わないのですか、と彼は聞く。

風に揺れる彼のアッシュグレーの髪が、何だかとても眩しかった。