失楽のウンディーネ【イナイレ】 (ページ1)

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「……ドクター、本当に、帰られるのですか……？」

「……そんな顔をしないで頂きたい」

とある一室、短髪好青年とも言うべきグレーの髪色をした彼が聞いたことはとんでもない発言だった。

勿論、彼にとっては、だ。

他の人が聞けば何故そこまで深刻そうに、しかも子供に質問するのかという疑問に苛まれる筈のその言葉を、目の前の私は苦笑したのだった。

「なあ、何度も言ったろうに、Mr.アラン、私はまだ博士号を取得していない」

のにも関わらず彼は私をドクターと呼び続けるので、忠告した所で意味が無いことは正直分かっていた。

彼はすかさず、僕をアランと呼んでくれ、と催促する。

「それに、私が家に帰るというのはそんなに危険か？」

「当たり前でしょう！

確かに、確かに貴方を苦しめていた憎き母親は死んでくれた。

でもあの父親は、警察官の筈なのに、貴方を護らなかったじゃあないか！！」

Bad police man!,と仮にも大学の中の部屋の隅で奇声を上げ始めた彼に溜息を吐きながら、あのな、と話を続ける。

すっかり2月の寒さで、何処か物憂げな木々が立つ窓からたまに冷たい風が吹き込んでくる。

角砂糖一つ入れたアップルティーがもう冷えてしまったようだ、そんな白磁に私は口をつけた。