ゝ・陸 ページ44
「止めないんですか」
「止める理由がない。君がその場の勢いでそんなこと言う奴じゃないって分かってるし、呪術師辞めたくなるような理由なんて幾らでもある」
私は午後ティーの蓋を閉めた。からからと軽いプラスチックの音がした。やけに静かだと思った。
「いや、寂しくなるけどね。呪術師を辞めれば君はそうそう命の危険に晒されることもないし、君が任務に行く度私や雄くんが無事に帰ってくるかってハラハラする必要もなくなる」
いや、静かになったんだ。悟のバカ笑いも傑がそれを窘める声も、硝子がのらくらと笑いながらそれを先生にチクるさまも、もう随分見ていない。きっともう見ることはないだろう。
「幸せになってね、建人。できるだけ長生きして、……それからできれば、私たちのことは忘れてね」
私は今、どんな顔をしているだろう?
笑えているだろうか。笑えていればいいな。
私はこれまでに一人を見捨て、一人を(請われたとはいえ)自分の手に掛けた。一人は私の元から去り、残った数人は嘆き苦しんだ。
素直に、もう嫌だな、と思ったのだ。
だから、もう我慢するのはやめようと思った。
そもそも私がこの世界に産まれた時点で原作は破綻まっしぐらなのだ。今更原作とか気にしても無意味だ。なので原作準拠の人生を諦めることにした。
救えるものは全部救うし、大事なひとには極力危ないことをして欲しくない。できれば建人もこっちに戻ってこなければいい。普通の人生を送って、幸せになってくれたら一番いいのだ。
建人は苦い顔をしていた。私はゆっくり立ち上がって、その金糸の髪を撫でた。
そして建人とも、やっぱりそれきりになった。四月頭まで私に大きい任務が入って、遠方に出向くことになったからだ。卒業式には、出られなかった。
706人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ニノ崎(プロフ) - めっちゃ面白いです,,,好みドストライクです!これからも応援しております。後,伍話目の美美美ー美・美ー美美ってまさか某マルハーゲ帝国()のパロですか() (2021年3月2日 18時) (レス) id: 159ece0998 (このIDを非表示/違反報告)
ぱるさん(プロフ) - みもなるーと。さん» 丁寧なご感想たいへん嬉しいです、ありがとうございます!燕は扇一の自立に必要な犠牲だったのでちょっと……ね……これから扇一夢主、ガンガン男前に磨きがかかって参りますので何卒お楽しみ頂ければ幸いです! (2021年2月26日 19時) (レス) id: 96fc810d06 (このIDを非表示/違反報告)
みもなるーと。(プロフ) - なんだかクソデカ感情を向けてしまった(?)夢主に恋してしまうかと思ってしまいましたね… 最近は天候が崩れやすいのでお体に気をつけて無理せず頑張ったくださいチュチュ… (2021年2月26日 17時) (レス) id: d641c5035a (このIDを非表示/違反報告)
みもなるーと。(プロフ) - な、なんだこの小説は今まで生きてきた私へのご褒美かご褒美なのか。夢主のどこか達観した想像力などに惹かれました。燕さん私の推しだったのに食べちゃいましたね…やはり愛とは、呪いなのかしらと再認識できた気がします。素晴らしい小説をありがとうございます。 (2021年2月26日 17時) (レス) id: d641c5035a (このIDを非表示/違反報告)
ぱるさん(プロフ) - 43yomi1さん» ありがとうございます〜〜!!!更新頑張ります!! (2021年2月26日 16時) (レス) id: 96fc810d06 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ