毒にも薬にも【短編集】 (ページ8)

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結成されて、数ヶ月後の桜が満開の頃。

深夜、2人で黙々とお菓子の缶を埋めた。

俺らに馴染みのあるテーマパークの空き缶やったから、ポップなのが不釣り合いで苦しかった。

…暗くてよう見えんかったけど、Aの目は少し腫れとった気がした。

泣いたんかな、泣いたんやろうな。

A『綺麗やね、桜。』

リチャ『…そやな、綺麗や。』

A『あの缶々な、うちが殺した、うちの片割れやから…屍体みたいなもんやねん。』

リチャ『屍体て…そんな厳ついこと言わんでも、』

A『ええねん、遺体って言えるような綺麗なもんでも、大事にするもんでも無いし。
なんやっけ、あるやんか、あれみたいやぁって思って

“桜の樹の下には屍体が埋まっている”。』

リチャ『…なんやったっけ、それ』

A『うちもよお分からんけど、
屍体が埋まっとるから綺麗なんやって、桜。

…うちの感情を養分にしたら、綺麗に咲くもんもダメになりそうや。』

……なんで忘れとったんやろ、Aが言っとったやんか。
この缶が、『屍体』やって。

A『…あんな、うちがちゃんとうちのこと殺せたらな、
10年後、絶対成功しとると思う。

だからな、うちが成功しとったら、リチャくん迎えに来たってくれん？
うちが殺した色んなもんのこと。』

“成功できんかったら、うちが独りで掘り起こしにくるから”

その宣言通り今、Aは大活躍している。

…演技も、朝の顔も、そつなくこなして
芸能界トップクラスのCM契約数と、レギュラー番組数。

ドラマは何クール連続やって言っとったかな。

Aぇのライブ中でも特にAの色のペンライトを点けとる人が今は1番多い。

アイドル、としては完璧。

人間味は、…無い。

埋めた、あの日からAは変わってしまったから。

デビュー発表のときは泣いとった、メインパーソナリティー7人でやったときも。

…けど、楽屋で泣いとることはあれ以来、見たことがなかった。

弱音も吐かなくなった。

周りに求められてる100%正解の感情しか表に出さへんくなった。

錆びついて変色した缶を、少しずつ力を入れて開ける。

缶の中には、『捨てたいもの』『リチャくんへ』と書かれた2つの封筒が入っていた。