毒にも薬にも【短編集】 (ページ25)

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A「………ほんっっっっっまに、なにしてんだろ」

2月14日の夜、私は小島家のインターホンを鳴らせずにもだもだしていた。

お互い受験勉強のラストスパート。
味見してもらう暇も無ければ、手作りしてる余裕も、百貨店に買いに行く余裕もなかった。

　
手にはバレンタインの時だけコンビニに売ってる某高級チョコ、6個入り。

……本命、って気づかれちゃうかな。

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伝える気はなかった、この恋心。

どうしても“行きたい！”って思える大学が見つかって、
模試はA判ばかりではないから、厳しいのは分かってるけど、

きっとその大学への憧れを捨てれなくなるだろうって、第2志望、第3志望も第1志望と同じ地域ので固めることにした。

そしたら、第1志望に通ってる子達とインカレとかバイトで仲良くなるかもしれないし！って。

……そう、私はこの春、上京することに決めた。

センター試験も泣くほど悪くはなかったし、受験する大学のどこかには引っかかると思う。

そう思ったら、関西の大学しか受けないこじけんとは絶対に離れちゃうんだー、って急に実感が湧いてきて、

気づけば自習帰りのコンビニでチョコを買っていた。

……気ぃ抜けすぎやろ、まだどこにも合格してないのに。

こんなん渡したら、真剣に勉強しとるこじけんに呆れられそう。

ぐだぐだ、もだもだ

インターホンを押せないまま、寒空の下凍えてた。

A「もう、帰ろかな…」

そう呟いた瞬間、

健「…なにしてんねん、こんな寒い中」

頭に『必勝』のハチマキを巻いて、メガネ姿のこじけんがドアを開けた。