毒にも薬にも【短編集】 (ページ19)

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ガチャ、

ドアを開けて、健のアパートに入る。

半休貰ったから、まだまだ彼が帰ってくるまでには時間がある。

…1人の時間の静かさが、怖くて、重くて。

A「…っ、…ぅ…」

ポロポロと勝手に涙がこぼれ落ちた。

カバンの中には、病院で貰った白黒のエコー写真。

それから、“貧血気味なので気をつけてください”と渡された鉄剤。

…赤ちゃんがいるんだ、ってそう思わせる物を持ってるのが嫌だなぁ、なんて。

…………自分勝手すぎるよね。

A話したいことがあるんだけど

A健の部屋で待ってるから

“早く帰ってきて”そんな気持ちを込めて、LINEを送って、スマホを置いた。

…何か調べてしまうのも怖いし、なにかする気も起きない。

ただただ、ソファの上で座ってぼーっとしていた。

・

まだ膨らんでもいないぺたんこのお腹に手を当てる。

…気のせいに決まってるのに、暖かい気がした。

A「……産みたいなぁ、」

無責任なのに漠然とそう思ってしまう。

……でも、もし、健が受け入れてくれないのなら、

そのときは、健の前から姿を消そう。

健には、健の人生があるわけだし、
巻き込む訳にはいかない。

健のためにも、お腹にいる子のためにも。

そんなことを考えちゃうのは、
健に迷惑をかけたくないって……

健のことを大切に思ってしまう気持ちからだった。