毒にも薬にも【短編集】 (ページ17)

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独占禁止令　紫ページ17

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不順だと思ってた。

1年目よりもずっと増えた責任と、業務量。
繁忙期に合わせて、崩れたホルモンバランス。

…だから、月に一回くるアレが、予定通り来なくなったんだと。

A「…………まじか、ぁ…」

まさか、ね…なんて思いつつ、変に薬飲んだらまずいかもって
…勘が働いたっていうか…

だから、“そうじゃない”ことを確認するために買った検査薬を片手に私はトイレで呆然と固まってた。

頭によぎるのは、2年目なのに育児休暇取るの？とか
…職場にちゃんと戻ってこれるの？とか

繁忙期なのに、申し訳ないし、でもちょっと…無理したくないし。とか

…一瞬だけ、浮かんでしまった

“迷惑かけるなら、諦めようかな”とか。

ただただぐるぐると回る思考に
目の前までぐにゃりと歪んでしゃがみ込んだ。

…最悪だ。私。
　

「…Aちゃん…ちょっと顔色悪すぎるよ？！
半休もらって、早退しな…？」

なんとか覚束ない足取りでデスクに戻ったはいいけれど、
同僚たちに心配されて、上司もすぐに納得するくらい真っ青だった私はそのまま会社を早退した。

もしかしたらもしかすると検査薬が間違いかも知れないし。って。

口コミも何も調べずに、近場の産婦人科に駆け込んだ。

『おめでとうございます。7週目ですよ、“お母さん”』

結局、淡い期待は打ち砕かれて、

急に貼られた“母親”のレッテルの重さに泣きそうになる。

『…どうしました？』

A「あ……えっと、心の準備が全然…できてなくて。」

浮かない顔した私に気づいた温厚そうなお医者さんは

…少し、難しそうな顔をした。

『……失礼ですが、パートナーの方…もしくは、頼れるご家族の方はいらっしゃいますか？』

A「……パートナー、」

パートナー、なんて重い言い方で考えたことがなかった。

…ただ、週に何回か会って、仕事の愚痴言って、落ち着いたら旅行行けたらいいね、ってそんな話を繰り返す。

大学生の頃からの延長線みたいな関係性。

逞しくて、頼りがいはあるけど、ちょっとデリカシーない人。

脳内で健に“赤ちゃんできたよ”って伝えてみたけど、
彼の表情も反応も全然想像できなかった。

A「…パートナー、ならいます。

けど、……結婚してないんです。
子どもとか、結婚の話をちゃんとしたこともなくって。」