【明治東亰恋伽】もしもがあるなら 参

【ナイルさんの行動を考える 4】 ページ34

心臓の鼓動が早いのは走ったからだけではないだろう。必死に呼吸を整える。



「……あんた大丈夫？」



『……』



鏡花くんが心配そうに尋ねてきた。大丈夫だとは言えない私は、つないでいる手に力を込める。頭の中はぐちゃぐちゃで、先程の出来事が何度も何度もフラッシュバックしていた。
円錐形の顔のない頭部、意志を持ったかのような触手、脈打っているのが離れたところからでもわかる皮膚。姿形だけならば、エイリアン映画の化け物のようだった。
目の前の怪物になったのが自分の知っている人でで、その生き物が人体を破るようにして出てきていたその光景は目に焼き付いている。
先程までの乱れた呼吸は整った。しかし不安と恐怖で頭の中は埋め尽くされていて、鏡花くんと繋いだ手を離すことができない。



『鏡花くん……』



「なんだよ？」



『あの、さっきの物の怪は……』



「多分違う。まぁ、正体が何かは僕にもわからないんだけど」



『物の怪じゃないんですか？』



「違うね。前にも言ったけど、この子が物の怪に対してあんなふうに怯えたことは今までなかった。まあ、あんたは腰抜かして動けなくなってたし、人に害を成す存在なんじゃないの」



『害を……』



「大体、あんなぐちゃぐちゃしててバイ菌が付いてそうな生物には関わらない方がいいと思うけどね。僕が連れ出さなきゃ、グズなあんたはあのままあそこで固まってただろうし？」



『そう、ですね……』



「……あんたがグズなのは知ってるからさ。僕に感謝してよね」



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